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7-2:聖人たち


 転移して案内された先は、真っ白な世界だった。


 見渡す限りあらゆる建物が白く輝いている。なんという名前の石なのだろうか。もしかしたら魔法によるものかもしれない。


「ここは教会特区。あの遠くにある壁の内側は全て白で造られてるの。建物は高位の神官や司祭の家だったり倉庫だったりだね。あの城みたいなのが本部。巨大な図書館とか、聖人の会議する場所もあるよ」


 シルフィアがガイドのように色々なことを教えてくれる。

 その話に耳を傾けつつ、俺は美しい景色を目に焼き付けていた。


「――っと、勇者のお出ましか。《|反射結界《リフレクリア》》」


 ふと足を止めたシルフィアが、太陽の方向に大きな結界を展開した。

 次の刹那、数度の閃光が瞬き、爆風が周囲を荒らす。


「【千聖宣理ケイオス】! やっと帰ってきたか!」

「ノルギア……歩いて『おかえり』って言いに来るだけでいいのになんで空中から剣で奇襲するかなぁ?」

「その方が景気がいいだろう。俺なりに嬉しさを表現したんだ」

「爆発してるのは脳の方だよ……」


 大きな結界に剣を押し当てているのは、青髪の青年だった。優しげな顔のくせして目が猟奇的という、なんとも恐ろしい男。

 白い装束はグルナに似たもので、実力や会話から聖人の一人なのが伺い知れる。


「おっと、客人がいたのか。道理で見覚えのない気配がすると思ったんだ」

「はぁ……詳しいことは言わないけど、右から――」


 シルフィアは肩をすくめ、義務的に俺たちの名前だけを紹介した。

 すると、ノルギアは剣を収め、口角を上げてティアを真っ直ぐに見た。その視線だけで人を射抜けてしまいそうだ。


「シルフィア、面白いことするじゃないか。魂を弄くれば確かに普通はバレないわな」

「やっぱバレるかぁ。その〈勇命眼ゆうめいがん〉、本当に便利だね……」

「まぁな。ところで赤髪の獣、というか虎な嬢ちゃん、これまでに人を食ったことは?」

「――!?」


 ノルギアの質問は、色々すっ飛ばしてはいるが、明らかに正体を認識しているそれだった。


 俺であれば獣が人になっているなど思いつきもしない。なのにノルギアはそれを見抜き、種族まで理解している。王虎フーレクスの危険性や強さ、習性を知った上でなければこの質問は出てこない。


「……ないわよ。街を滅ぼした事はあるけど、人は弱い奴らが先に食べちゃうし。それに骨と筋肉ばっかで食べづらいらしいし。ワタシはずっと魔物か家畜を食べてるわ」

「ならいい。俺が手を出す必要はない」

「ワタシに向かってそんな事が言えるなんて、あんたは本当に勇気があるのね」

「ま、俺は勇者だからな」


 勇者ってそういう意味だっけ……?

 こう、弱きものを助け悪に立ち向かう――みたいな感じだと思うんだが。これじゃただの戦闘狂だ。


「そこの魂変わってる嬢ちゃん、もしや悪口思い浮かべてない?」

「……いっ、いや!? そんなことないっすよ!」


 魂変わってる嬢ちゃんは俺しかいねぇよ! なんなんだよこいつ! いきなり切られたりしないよな……?


「別に切ったりしねぇって。魂に『シルフィアがべったりついてる』のに切ったら絶縁されそうで怖いから」

「べったり、ついてる……?」

「おっと、教えてないのか。なら余計だったな、悪いが忘れてくれ」


 そう言ってノルギアは口笛を吹き始めた。妙に上手いのが腹立つ。


「シルフィアさんや俺の魂にいったい何が」

「伶の安全を守るためだから! 大丈夫! 安心して!」

「目がぐるぐるしてるけど……まぁいいや。信頼してるし」

「伶……!」

「こんなとこでいちゃつくなや……ま、尚更面白い。少年、俺と戦え」


 ……どうやら俺は難聴になったかもしれない。

 少年呼ばわりされてるのも面白くないし、戦うとか意味不明だ。

 そもそも聖人って聖なる人だよな? 真っ当な正しい人格の者を指すんじゃないんですか?


「嫌と言ったら?」

「シルフィアが相手になる」

「私嫌だよ!? またこの街を木っ端微塵にするのとか面倒なんだから……修復魔法は魔力持ってかれるし疲れるし!」

「シルフィア、あのダンジョンで街を壊すのに慣れてたのもしかして」

「全部この青勇者のせい!」

「青勇者とはなんだ青勇者とは! 【剣聖法界ブレイブ】として名高いんだぞ!」

「それじゃあ、グルナが審判するの! 伶お兄ちゃんとノルギアお兄ちゃんが戦って、シルフィアお姉ちゃんはグルナと一緒にそれを見るの!」


 グルナの突然の提案に、一瞬会話が凍りつく。


「……少年、それでいいか」

「えっ、あっはい」


 ノルギアの表情は、「頼むから頷け」と言わんばかりになっていた。

 なぜかと理由を考えるが、すぐにグルナのせいだと気づく。聞き込みという「会話」で日本トップクランを破壊する幼女にはさすがに勝てないのかもしれない。俺も拒否してボコられたくはない。

 まぁ、受け入れた時点でボコしてくる相手が幼女から勇者に変わっただけなんだが。


「そんじゃ、かかってこい。全部使って俺を楽しませてくれ。殺しはしないから好きにしろ」

「はぁ……んじゃ、いかせてもらおうか」


 女の身体になって、違和感はないもののどこまでやれるか分からない。


 しかし、明らかな格上と戦う機会なんか中々ない。


 スタンピード以来使っていなかったスキルたちを全部解放し、本気の状態で挑むとしよう――!

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