「この世界においてスキルの常識とは、『スキルは最大4つ』『最初に得るスキルと同系統のみ』の二つよ」
「……あるえ?」
「本当に知らないのね……にしても何その素っ頓狂な顔……ぷぷっ、可愛いのにそんな顔もできるのね……!」
エナ姉さんには笑われたが、俺は内心で首を傾げている。角度は鈍角だ。
さて、ここで俺のステータスを覗いてみるとしよう。
〜〜〜
朝宮 伶
スキル:〈召喚〉〈天空眼〉〈龍炎〉〈神獣脚〉〈虚空心〉
アビリティ:精神苦痛耐性LvⅧ 炎熱耐性LvⅤ 蒼穹剣術LvⅤ 勇気LvⅥ 精神攻撃耐性LvⅢ
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はい、5つですね。
シルフィアもイラードくんもスキルは今のところ3つだ。知る限りは俺だけしかいないということになる。
同系統のスキル、というのはよくわからないが、少なくとも〈召喚〉と似たスキルは魔法という共通点で〈龍炎〉になる。まぁ、似てない方が多いわけだ。
……見事に法則フル無視なんですが。
「そうだ、少しステータスを覗いても良いかしら?」
「えぇ、どうぞ……エナ姉も見れるんだなぁ」
「ふむふむ……うん、おかしいわね。本当にどうなってるのあなた」
「真顔で言われると傷つきますぅ!!!」
本当に頭がおかしな人を見る時の顔! 妖艶な人にやられると尚更イメージの差異で心が痛い!
「スキルが5個なのも不思議だし、同系列のものがほとんどないし。それに――」
「それに?」
「シルフィア、あなたがこの子を連れてきたのは――いや、帰ってこれた理由はこれね?」
「そうだよ。多分、運命の理で動く『オリジン』」
「運命の……!? 道理であなたを召喚できるわけね」
互いに意思疎通が完了したようだ。俺はハブられている。悲しいね。
ちなみにオリジンとは起源を表す言葉だ。話の内容から察するに、〈召喚〉は起源的な何かなのかもしれない。
まぁ、世界を超えられるようなスキルなのだから秘密の一つや二つあったところで驚きはしないが。
「ともかく、スキルの制限がないのはとても貴重よ。
「……
そこで口を開いたのは、これまでずっとフードを被って姿を隠していたユーフォスさんだった。
皆驚いたような顔になったが、何かに納得したのかすぐに表情をもとに戻した。
「何かしら」
「魔王城には大量の
「魔王陛下がそれでいいと仰るなら、私に異論はないわ。皆はどう?」
問いに対し、何かを述べる者はいなかった。
俺は話に置いていかれていたので何も言えなかったのだが。
「では、魔王陛下に謁見するとしましょうか。シルフィア、よろしく」
「任せてっ」
◇
またしても俺の魔力を使い、転移魔法陣によって転移した。
次に見た景色は、静謐な回廊だった。
床には紫のカーペットがひかれ、左右には様々な形の彫像がある。そのリアルさは思わず動き出してしまいそうなほど。
一国の王のおわす城として、威厳は充分すぎるくらいだ。
「ここは謁見の間に繋がる回廊です。転移してきた時点で陛下には情報が通達されているはずなので、このまま行っても問題ないでしょう」
いつになく冷静に、ユーフォスさんが告げる。
――薄暗い空間に響くのは、皆の息遣いのみ。
戦争をするわけでもないのに、威圧感はどうにも増すばかりだった。これが、「魔王」へ近づいているという証なのかもしれない。
「……こちらです」
重厚な扉が、ゆっくりと開かれていく。
そこは黒で彩られた剛健さの溢れる場所。
見上げた先に座る少女——魔王の元まで続くカーペットは血のように赤く、ほのかに血の匂いすらもしたように思えた。
「よくぞ参った、皇国の聖人の諸君」
魔王というには幼いが、身体には見合ったような声で声をかけられる。
それを聞いた瞬間、シルフィアが高く飛び上がって魔王の元に飛んでいった。
魔王の顔は驚きに染まるが、時既に遅し。シルフィアの影が魔王を覆い隠すと――
「ん~! ルミナスちゃん! 元気してたっ!?」
「ぐ、ぐるしいぞ……」
魔王に頬ずりして抱きしめている聖人が、そこにはいた。聖人ってなんだっけ。
そういえば言ってたな、魔王と友達だって。半年前の事だから忘れてたな……
「し、シル! 今日ここに来たのは妾を撫でくりまわすためじゃないのじゃろう!?」
「おっと、そうだった。かくかくしかじかあって……」
「ほぉほぉ……」
俺たちが呆然としている間に話は終わったらしく、魔王ルミナスは鷹揚に頷いた。
「
「じゃあ――!」
「じゃが、もっといい方法がある」
言葉を遮って魔王は立ち上がると、真っ直ぐに俺を見つめた。
シルフィアはその視線を辿って、俺を不思議そうに見つめる。可愛い。
……なんか恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしい。
自然と足が後ろへ動きそうになるのをなんとかこらえる。
「いい、方法……?」
ふとそんな言葉が漏れ、魔王は愉快そうに口角を上げた。
「そうじゃ。せっかく特別なのじゃから、特別な事をする方が良いと思ってな。妾が直接執り行ってやろう」
「それって危険とかなかったり……?」
怯えつつ聞くと、意外な反応だったのか破顔して「面白いのを連れてきたのぉ、シルフィア……!」と笑いながら呟いた。
「危険はない。それどころかこの国では栄誉とされているのじゃぞ? まぁ、楽にして受け入れよ」
「は、はぁ……」
「〈
刹那、魔王の伸ばした手のひらから大きな魔法陣が現れた。転移魔法陣くらいはある。あんなに大きな魔法陣を展開する人は見たことがないぞ……!
「ほぉ……! お主、本当にとんでもない――!」
その目はまるで、おもちゃを見つけたときの子どものように煌めいていた。頬を紅潮させ、驚愕も混ざったような表情。
思わず俺が呆気にとられてしまう。
「では――お主にスキルをくれてやる」
「……え? え? はぁ!?」
「かつてシルフィアにも提案して断られたが……お主ならばちょうどいいじゃろう。色々な意味でもな」
「スキルって人に渡せるものだっけ!?」
「ルミナスちゃんはできるんだよねぇ~」
「すごいわね……! 解析のしがいがありそうなスキルだわ!」
皆が言葉に詰まる中、友人のお方と情報系のお方が即座に反応した。
魔王はどうやら肩書きだけでなく能力も特別なもののようだ。俺もそんなふうになってみたい。
「ほれ、楽にするが良い。――〈
魔法陣から力の奔流が流れ出し、その全てが俺の中へと入ってくる。
咄嗟にステータスを開くと、スキルが一つ増えていた。
俺はその名を、無意識のうちに呟いていた。
「〈憧憬の翼〉――!」
「心に秘める憧れや希望を体現したスキルじゃ。きっとお主の未来に大きく役立つことじゃろう」
試しに起動してみると、俺の背中から暁色の翼が二枚広がった。
新しく腕が増えたような気分でなんとも違和感があるが、なんとかなりそうだとは感じた。練習すればものにできそうだ。
「――では、次の話をしなくてはな」