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10:白

「ではお主、妾に質問はあるかの?」

「質問、ですか……」


 次はどうやらワクワクご質問タイムになるようだ。

 う~む、ぱっとは思いつかないが……何かあったっけな。


 話題を見つけようと、辺りをぐるりと見まわした。

 美少女たち……とりあえずこれか。


「どうして俺のスキル〈召喚〉は、美少女しか召喚できないんでしょう」

「かかっ! 面白いことを聞きよるのぉ」


 一方、召喚された側の方々は顔を赤らめていた。ティアは誇らしげにしてるほうが勝ってるけどね。

 もちろん、陽彩も美少女だと思ってる。


 あ、顔赤くなった。さては魂見たな? 原理は俺には全く理解できないんだけど。


「それは簡単じゃ。皆の『運命の理』が強くはたらいておるから。それだけじゃよ。強い運命を持つ者の顔がどうして醜かろうか。考えてみればすぐにわかる。それに、運命が強い者にそれらは集まってくる。だからお主の周りには見目麗しい女子が多い」

「なるほど……」


 考えてみれば、と言われても困るなぁ。今ままでそんなこと考えたこともなかったのに。


 運命ねぇ……運命といえば――と、ふと一つのことを思い出す。 

 かつてシルフィアに冒険者をやる理由を聞いたとき、彼女は言ったのだ。


「責任と運命……かな」と。


 まだ責任の意味は分からないままだが、運命という言葉の定義はここにはっきりした。きっとこれのことを指していたのだろう。


「笑わせてくれた礼じゃ、もう一度質問する権利をくれてやる。何かあるか?」


 一難去ってまた一難。本当にどうしたものか。

 頭を傾げ、腕を組み、翼をはためかせ――って翼! 翼といったら!


「天使について、教えてくれませんか」

「――あぁ、あの羽アリどものことか。いくらでも教えてやるが……どんな事を知っておるのじゃ?」

「俺の世界において、水面下で暗躍する謎の存在。上下関係があり、探索者ギルド――こちらで言う冒険者ギルド――の内部に巣食っている。そんなところでしょうかね」


 ふむ、と少し考える素振りを見せた後、再び口を開けた。


「グランドギルドマスターは誰じゃ。なんという名か」

「えーっと、日本人に対しては永光白矢ながみつはくやという名前を」

「ニホン……あぁ、民族か何かの名か。では他のところでは?」

「確か、ジョン・ノーデンス」

「「「――!?」」」


 シルフィアと魔王。そしてユーフォスさんが顔を驚きに染め、信じられないといっ

 た様子で息をのんだ。


「真っ白な服を好んで着るようで、白いスーツに白い手袋をつけてる。なんなら白い制帽も被ってる。瞳も白に近い色合い。不気味だけど世界的な規模の組織をまとめる日本人のリーダーとして世界中で評価されてる」

「……そちらの世界には、どうやらまともな上位者がいないようじゃな。本来の神々がダメそうじゃし」

「私もそう思う。神の気配はあったけど、ダンジョンに侵食されてることに何も感じていないようだった。抵抗するのを諦めてるんだろうね」

「あの者がまさかあちらにいたとは……! 申し訳ありません陛下!」

「ユーフォス、そんなに畏まるな。なにせ妾の妹なのだからな」

「大変失礼を……いや、そうだね、お姉ちゃん」


 わーお、なんだか百合の花が咲きそうな予感がしてきたぞ。てーへんだぁ!


 と俺が心の中で騒いでいるとき、雰囲気を察しているのか察していないのか分からなさそうなティアが割り込んだ。


「それで、ジョンってやつをどうするつおりなの? 行動するなら早くしないと」

「……どうやら失敗をしたのは妾の方じゃったようじゃ。ではそこな女の男よ」


 一瞬何のことかと思うも、俺のことを言ってるのだと気づいてすぐさま返事をする。


「仲間と共に冒険者ギルド本部を訪ねて参れ。教皇の威光があればそれくらい容易かろう? それに、S級のシルフィアもおる。案ずることはない。ではな」


 言いたいことを言ってぱっと魔王とユーフォスさんが消え去った。


 残されたのはパーティーメンバーの皆だ。


「シルフィア、案内頼んだ」

「もっちろん!」


 ◇


 そして、俺たちは再び帝都に舞い戻った。


 目的地は冒険者ギルドの本部。

 過去に帝国にいたソラ・マーク・クロノスという人物が作った建物なのだそうで、幾何学的なデザインは一目で分かるほど特徴的なのだそうだ。


「れ、伶。その……さっきの戦いのことなんだが」

「どうしたよ陽彩。あ、そういや戦うとこ見せたの初めてだったか……」

「君があんなに強かったなんて知らなかった。目で追えないような速度で動いたり、緻密な剣戟を繰り広げたり、本当にすごかった!」


 その言葉は、興奮から出てきたものではなく、せきを切ったかの如く話したように感じられた。


 ――赤く染めた頬が、陽彩の幼い顔立ちを可愛くしている。撫でくりまわしたい。今なら同性ということで許されるのでは……?


「れ~い~?」

「はははいやだなシルフィア俺が変なこと考えるわけないだろ~!?」

「伶、その割には目がかっぴらいているぞ……」


 陽彩の鋭いツッコミ。俺に30のダメージ。


「ほら、行くわよ」


 ルナイルとティアはどうやらここで常識人サイドに行くらしい。なんたることだ! ま、俺も行くんだけどね。


 シルフィアとルナイルが交渉に当たるということで、俺とティアと陽彩は暇になった。なので内装を見て時間を潰そうと思う。

 どうやら陽彩もその考えに至ったのか、色々なところを見て何かに納得した様子で頷いている。


 ――中は西洋風の役所といった感じだった。だが随所にアーティスティックな要素が見え隠れしており、ソラという男のセンスの良さを心に刻みつけられる。

 もし会うことがあれば、ぜひとも感謝を伝えねばならないな。


「シルフィア。結果はどうだった?」

「本人は不在だってさ。当然だけどね」

「けど、部屋に入るのはいいらしいわ。S級の肩書きは伊達じゃなかったわね。それと、物に触らなければご自由に、だそうよ。整理されているから触ればすぐ分かる、とも」

「ありがとう二人とも。それじゃあ見に行こう」


 各階層を繋ぐ小さな転移魔法陣で最上階に移動すると、一瞬で絶景が視界に飛び込んできた。

 地上10階くらいだろうか、かなり高いこの建物は帝都を一望することができる。ますますソラのセンスを褒め称えたくなるな。


「それで、この部屋が……」

「ジョンの部屋だね」


 外観は普通の部屋だ。だが、何があるかはさっぱり分からない。

 慎重にドアノブを掴み、ゆっくりと手前側に引いていく。


「……きったな」


 正確には、散らかっていて汚いが正解だ。

 雑誌やら箱やらなんやらがそこら中にある。

 整理されてるとはいったいなんだったんだろうか。


 はて、その本やら何やらに書いてあるのが日本語なのはどうしてだろうか。街中にある文字とは全く異なる。


「失礼だな。たまたま用事で散らかしてしまっただけなのに」

「!?」


 おい誰だよ不在って言ったやつ!

 普通にソファで本読んでるんだけど!?


 ……おかしいな、さっき一瞥はしたはずなんだが。幽霊か何かかね。本当に真っ白だから尚更それっぽい。


「――単刀直入に聞いていいかな」


 シルフィアが、黒く禍々しい剣を取り出して言った。近くにいる全てを呪ってしまいそうなほどに恐ろしい魔力が渦巻いている。


「何が目的なの? 探索者ギルドグランドマスター、永光白矢くん。あるいは冒険者ギルドグランドマスター、ジョン・ノーデンスくん?」

「ははっ、愉快な女性だ。できれば私を一撃で葬り去ってしまいそうなその剣をおろして欲しいところだけど」

「お褒めに預かり光栄よ。それで、目的については話してくれないのかな?」

「私が言えることはただ一つ。我々ドミナジオンに興味はおありかな?」


 ドミナジオン……どっかで聞いたような――あっ。


「危険な裏組織、ドミナジオン――そう聞いてるんだがな、こっちは」

「全くひどいものだ。崇高な理念を理解して頂けないとは」

「その理念を知らないんだなこれが」

「おや、情報は危険ということだけなのですか。無知の知という言葉を送って差し上げますよ」

「あぁ先生よ、哀れな無知の徒にお教えくだされ」

「ふふっ、いいでしょう。楽しませれくれたお礼にね。我々の役目、目的は――天使たちによる世界征服、ですよ」


 刹那、場の空気が変わった。

 目の前にいた白い青年が、人知を超えた化け物に変化したような、そんな感覚。


「深淵で待っておりますよ、朝宮伶。私はあなたをずっと見ていた。オリジンの力は世界を統べるのに大きく役立つ。きっと悪い話ではないでしょう。だから、待っています」


 翼を――天使の証を広げ、どこかへ消え去った。


「シルフィア様! どこでございますか!」


 外から響いた男性の声。ふと見ると、特徴から魔族であることが見て取れた。


「魔王陛下より伝令! 『世界が歪んでいる』とのことです!」

「……伶! 今すぐ召喚門ゲートを!」

「はぁ!? わ、分かった。〈召喚〉!」


 白い光に包まれ、俺たちは、世界を越える。


 希望と絶望のタイムリミットの境界線を、この手で、この足で越えたのだ。

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