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ダンジョン庁公式会見

 記者会見室の中は、喧騒で満ち溢れていた。


 会見の開始予定時刻まで残り数分。

 日本を襲う未曾有の危機に対し、総理でありダンジョン庁長官がどのような発言、対応をするのか。記者はその全てを記録し、報道せねばならないとの強い意志を持ち、主役の登場を待ち望んでいた。


 そして、ついに総理が入室する。瞬間、フラッシュの雨が降り注いだ。 


 彼は元探索者ゆえに、一般の記者たちよりも豊富な知識と経験を持っていた。有識者がどのような判断を下すのか、わかるはずもなかったのだ。


「本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。内閣総理大臣およびダンジョン庁長官の不破黒斗です。現在、日本において発生している現象――幻想災害の影響により、国民の皆様に多大なる不安を抱かせてしまっていることと思います。政府は、この事態を極めて深刻に受け止め、対応を進めております」


 見た目は若い青年、しかし中身は半世紀以上生きた男。

 その経験の多さからか、この緊迫した状況であっても落ち着いて言葉を紡いでいる。


「まず、現時点での状況についてご説明いたします。出現している白い翼を持つ生命体――我々は天使と呼ぶものですが、我が領空内に突如出現した城のような建造物から出現していることが確認されました。航空自衛隊に要請し、交渉など自衛手段を講じましたが、反応がなく、威嚇射撃をしたところ、城を囲うように強力な魔法結界が構築されていることを確認しました。そのため、大半の攻撃手段では破壊が不可能であると政府は認識しております」


 天空に突如発生した城。誰が住んでいるのか、誰がいるのか、全てが謎に包まれている。

 一つわかることは、ただ大きいということだけだった。


 宇宙から撮影された写真によれば、上から下までが白で塗りつぶされていることが分かった。しかしそれ以外には情報がない。


 ミサイルでの攻撃を促す声も上がっているが、しかしそんなことをして破壊できても隕石のように落下してくるのは間違いなく、甚大な被害が懸念されていた。


「そのため、政府はS級探索者の4名と従魔1体、【万花】【千魔剣戟】、【金盾】、【王虎】、【無窮の魔女】に対し、特別要請をいたしました。理由と致しまして、彼らは最近で最も実力と勢いがある探索者であり、協力的であったためであります。決して決死の行動や命令ではないということを、ここに強調させていただきたく思います」


 名古屋で度々活躍していた探索者たちの名が上がり、記者の間でどよめきが広がる。


 よもや高校生に日本の危機を救う重責を押し付けるとは。そんな独り言もどこかから聞こえた。


「元探索者として一つ言えることは、あれはS級を超えた禁忌指定ダンジョンであることです。かつて私が若き頃に封印したものが蘇ってくるとは……おっと、そういえばあれが出現しているということはこの世界は既にダンジョンの中だったか」


 敬語を忘れたかのような、どこか荒々しいその姿こそ、S級探索者・不破黒斗。

 かつて【魔王】と呼ばれた男を知っている者は、その片鱗が垣間見えたことに心を震わせた。


「総理として、ダンジョン庁長官として申し上げたいのは――彼らは間違いなく危機を解決し、この世界に平和をもたらすことであります」


 若い記者は根拠を疑い不満げな顔をするが、壮年の者は彼の活躍と実績を知っている。そのため、硬かった表情には笑みが浮かぶ者も少なくはなかった。


 二度も喜ばされたことで、外が災害に襲われていることを忘れて楽しんでしまったのは仕方がないことだろう。

 言うなれば彼は「前作主人公」なのだ。この展開を面白く思わないはずがない。


「最後に、この事件の首謀者についてお知らせしたく思います」


 ――その矢先、爆弾発言が飛び出した。


 いったいどうして首謀者を知っているのか。何がどうしてそうなったのか。その場の全員の脳裏にはそんな言葉が流れたのである。


「探索者ギルドグランドマスター、永光白矢。またの名を、ノーデンス・ジョン。彼こそ、今回の元凶であり、天使の中で最も上位に位置する熾天使セラフィムなのです」


 それは、伶たちが知らなかった情報だ。

 天使であることまでは分かっても、階級までは知らない。


 なぜそれを黒斗が知っているのか――それは彼の中に巣食う「魔皇」に聞けばわかることだろう。


 無論、それを成し得る者はこの世界に数人しかいないのだが。


「それでは、質疑応答に入らせていただきます。記者の皆様におかれましては、質問は一人一回にさせていただきたく思います」


 横にいた女性が発言し、剣山の如く手が挙げられる。


 一人の記者が指名されると、所属と名を名乗ってから質問を始めた。


 ――そうして、伶たちの存在と行動は世界中へと知られることになったのである。



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