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4:天使と悪魔

 コツ、コツ……と硬い地面を歩く音が響く。


 辺りは明るい。破壊された、あるいはもともと朽ちていた壁から差し込む光で満ちており、見通しもいい。

 横幅は人が四人並べるくらいで、見た目は城の通路――廊下といった感じだ。その静けさが不気味な雰囲気を醸し出している。


 そして超ハイリスク。リターンが何かもよくわからないままここに来ている。

 もし失敗した場合、世界は恐らく滅ぶ。

 それを防ぐため、この天空城にやってきた。誰もこれ以上死なないように、と。


「……敵か」


 目の前に、幼い子どものような真っ白な人――つまりは天使が立っている。天使は見た目でその力量を判断することができない。こいつも例に漏れず、A級程度の強さを持っていることが分かる。


「悪魔たち、やれるか?」

「「「御意」」」


 ルナイルによれば、彼らにとって魔力というものは俺らの金と等しいらしい。そして、悪魔たちは魔力に飢えている。だからちょうどいいのだ。


 まだ、俺らが力を使う時じゃない。


「戦闘、開始」


 無機質な声で天使が呟いた。


 直後、あらゆるところから天使が現れた。

 まるで罠でも仕掛けていたと言わんばかりに。


「これ悪魔だけでどうにかなんのかなぁ……?」

「妾たちを甘く見るでない。行くぞ!」


 天使と悪魔の戦いの火蓋が、今切って落とされた。


 双方魔法も使うし空にも浮く。ほぼ対等なように思われたが、唯一の違いは戦い方だった。


 統制を取って規律正しく動く天使に対し、悪魔は俊敏な動きで意識を逸らして魔力を吸う。エネルギーを奪われた天使は活力を失い、戦闘不能になる。

 魔法で反撃されたとしても誰かから魔力を渡されれば復活するが、天使は人間に近い構造のため、白い血を流してぐったりしてしまう。


 対して時間が経たないうちに天使は皆倒れ伏し、ぐったりした悪魔は仲間に助けられ復活する。


「我々の勝利にございます」

「よくやってくれた。さすがは我が臣下である」


 くぅ~! こういう王みたいなセリフってかっけぇよなぁ~! 一度は言ってみたいもんだと思ってたが、ここで言えるとは! 


 悪魔最高だわほんと。足向けて寝られねぇよ!


「それじゃ、先に進もうか」


 それから数回、天使との戦闘を経た。

 その頃には城の中に進んできたようで、陽の光から灯火の光に置き換わっていった。ようやくダンジョン感が出てきたな。


 まぁ、俺たちはまだ戦ってないんだけどね。


「次は魔物――しかも龍か……俺の肩慣らしに使わせてもらおう」


 青い肌の龍が、道を塞ぐように待ち構えていた。


 なんとなく予想はしてたが、やはり目が血走って暴走状態になっている。天使もこんな感じのやつ研究してたからなぁ。


「ギャオオオオオオ!!!」

「いいねぇ! んじゃ行くぞ! 《|滅岩山《ディザスロック》》!」

「俺の魔法を……!?」


 ラウン先輩が驚いてくれた。いえい。


 魔法というのはスキルで使える種類が決まる。彼のスキルは知らないが、あまり同じ魔法を使う相手を見る機会は少ないはずだ。だからあれほど驚く。


「ギャオオオオオオ!?」


 身体がどんどん岩に侵蝕されていき、龍はそれに抗おうとジタバタもがく。しかし動きは次第に鈍ってしまい、情けない声を上げながら岩へと姿を変えてしまった。


「《|爆風《サイクロン》》」


 向こう側へと風が吹く。

 龍だったはずの岩は崩れ落ち、跡形もなく消え去った。


「よし、問題なく魔法は使えるな。先へ進もう」


 さらにまた歩いていく。

 次は全身が炎で出来たゴーレムのような魔物だった。

 言い換えるなら、「イフリート」といったところだろう。


「そういえば、ぼくが戦っているところを見せた事はないかもしれないな」


 そう言って魔女姿になった陽彩が前に出た。

 右手にはあの鎌も持っており、戦闘形態なのが分かる。


「――!」

「ぼくが相手になってやる」


 刹那、イフリートは陽彩の眼前に移動していた。大きく腕を振りかぶり、殴り飛ばそうとしている。


 だが、それを許すほど無窮の魔女は弱くない。


 襲い来る腕を鎌で切り飛ばし、左手をイフリートへ伸ばす。

 すると、左手に向かってどんどん炎の巨体が引き寄せられていった。


「貴様の魂は、既にぼくの手中にある」


 左手で何かを掴み――握りつぶす。


「……」


 イフリートは蝋燭の火のように吹き消された。

 ほとんど動くこと無く、完封してしまったのである。


 これこそが無窮むきゅうの魔女。新進気鋭の最強探索者と呼ばれ始めていた少女。


「伶、どうだった?」

「……めっちゃかっこよかった」


 俺の返した反応がお気に召したのか、陽彩は嬉しそうに笑った。

 これ本当に孤高の探索者かよと思うが、可愛い笑顔が見れたのでよしとしよう。


「次の敵は……あら、近くにはいないのか。ボコしたかったのに」

「なんだかここの雰囲気も変わってきたね」

「そうね。不吉な感じがするわ……」

「すんすん――ほぉ、血の匂いね。監獄を感じる」

「監獄を感じるとはなんだ……ぼくには分かりそうもない」

「ティアは村で警備をやってたと聞いている。俺はまつりごとをする側だったから共感は出来ないのが残念だ」

「牢屋に悪人を閉じ込めて魔力を吸う『魔刑』を思い出すのぉ。妾はそれで強くなった」


 それぞれが口を開くと、いとも容易く騒がしくなる。

 最初はシルフィアと二人だけだったのに、今ではこんなに仲間が増えたのか……なんだか感慨深いものがあるな。

 7人中3人が人間ではないことは忘れても差し支えない。


 と、その時、陽彩が何かを感じ取ったようで足を止めた。


「伶、そこの牢屋に魂が見える。すごく薄くて希薄だ。もしかしたら死にかけかもしれない」

「天使しかいない城に弱った人間一人だけ? ほんとよくわからんねここは……」

「とりあえず助けてみよう。伶、それでいい?」

「もちろんですとも!」


 シルフィアさんに言われちゃあ断れない。

 果たして第一村人はどんな奴かなぁ~?


「――あ」


 見覚えのあるフード、雰囲気、カメラ。

 3つの見知った要素を兼ね備えた男が、そこには座っていた。


「……き、聞きましたよ……政府がみなさんをここに送り出したって……す、すごいですよね……」

「いきなりどうしたんだよイラード……まぁ、すごいことなのかもしれないけど、俺は別に勇者気取りしてるわけでもないんだからそういうのはいいよ。称賛されなくたって気にしない。今までの人生がそうだったように」


 え、勇者気取りでかっこつけてるだろ、だって? うるせぇ!


 俺の返答にイラードが何を感じ取ったのかは分からないが、すごくこの場から逃げたそうにしているように見えた。


 ゆーっくりと、ナメクジみたいな速度で俺たちが来た方向に向かっている。牢屋の格子は抜けれるんだろうな。初配信を見た限り多分できそう。


「《|融解《メルト》》」


 だが、そんなことを気にせずシルフィアが格子を溶かす。


「ねぇイラードくん。遠くからでいいからさ、私たちの戦いを記録してよ。そのカメラってのがあればできるんでしょ?」


 にっこりと、不敵な笑みでシルフィアが言った。


「――は、はいぃ……」


 無論その圧に耐えることなど出来ず、イラードがカメラマンとして参加することになったのである。南無南無。


「ま、目的地まではすぐだ。さっさと倒して、世界救っちゃいますか」




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