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 カミロの店を出てから家に着くまで、街の連中にリディさんが注目を集めていた以外は特に何事も起きなかった。そもそもが美人だしなぁ。それがエルフだからなのかはよく分からないが。リディさんがトラブルに巻き込まれるのが一番困る事態だったので、それがなくてホッとした。


 家に着いたら、みんなで荷物を運び込む。アポイタカラも作業場へ入れてしまう。リディさんも根菜なんかの軽めのものを家へ運び込むのを手伝ってくれた。

 運び込みが終わったら、いつものとおり休暇である。休暇と言っても、街に出た時は思い思いの作業をするような感じだ。今俺は特注モデルを受注している身ではあるが、リディさんに断って、いつもどおりに過ごさせてもらうことにした。


 折角なのでアポイタカラを触ってみることも考えたが、鍛冶仕事になるし、さすがにこれは後回しにすることにして、作業場に欲しかったものを作ることにした。


 作業場内にある、鞘なんかを作った余りの木材をかき集めてくる。そこそこの大きさのものもあって、俺の作りたいものには足りそうだ。

 ナイフの切れ味に任せて、材木からパーツを切り出していく。この切れ味も魔力が関係していたんだなぁ。今度から特注の時はもっと意識してみるか。釘を使わずに、なるべく噛み合わせなどだけで組み上がるように切り出したので、切り出しには時間がかかったが、なんとか組み立ての時間を確保できているので、そのまま組み立てにうつる。

 やがて不格好だが、ミニチュアの家のようなものが完成した。手のひらサイズである。形式については詳しくないのでそれっぽく作っただけだが、本来収まるべきものがこの世界にはいないと思う(少なくともインストールされた知識には該当がなさそうだった)ので、とりあえずは良しとする。

 木材から切り出した板で棚を作って壁に取り付け、その上にミニチュアの家のような形のものを置いたら、"かんたん神棚"の完成だ。元日本人としては、こういう場所に神棚がないのがなんとなく落ち着かなかったので作ってみた。本当は家の方に作ったほうがいいのかも知れないが、個人的にはこういう作業場にあるのが似つかわしい。

 この世界の神様的になのかなのかは分からないが、大目に見てほしいところである。収まるべき神様がこの世界にいるのかも分からないしな。

 台所から小さい皿と小さいコップにそれぞれ塩と水を入れて、一緒に棚に置いておく。朝の日課にこれの交換も加えないといかんな。俺はかんたん神棚に一礼したあと、柏手を打って、夕食の準備に取り掛かった。


 翌朝、水を汲んできた俺は先ず神棚の水と塩を下げてきて、新しいものに入れ替えた。捨てるのはもったいないので朝食のスープに使ってしまったりする。後の行動は朝食が終わるまでは大して変わらない。

 朝食が終わって今日の作業分担を話し合う。俺は当然ミスリルの剣の打ち直しを続けるが、今日からしばらくはリケ、サーミャ、ディアナは一般モデルの製作をしてもらう。2週間後ではあるが、それなりの納品数は必要だしな。リディさんは俺の作業の見学と言うか、見張りと言うか、まぁそんなようなことをすることになった。


 作業場に入ると、俺は神棚の前に行き、二礼二拍手一礼をして今日の作業の安全を祈る。この祈りを受取る先がいるのかどうかは分からないが、やっぱりこういうのがあると、意識の切り替えがスムーズに行く気がする。これだけでも作ったかいがあるというものだな。

 俺が拝礼|(のようなものだが)をしていると、リケが話しかけてくる。


「親方、今何をしてらしたんですか?」

「北方の我が家に伝わる、神に祈る儀式だ」

「あの変わったお家のようなものは?」

「あれはそうだな……各家庭に設置する簡易神殿のようなものだよ」

「へぇ、北方はそういう風習があるんですね」

「うちの家だけかも知れないし、どれくらい効果があるかは知らないけどな」


 興味を持ったリケの質問に答えていく。


「エイゾウさんは家名をお持ちなのですか?」


 その会話を聞いていたリディさんにも質問される。そういえば言ってなかったな。


「ええ。ただ、こんなところに住んでいることからもお分かりかとは思いますが、ちょいとワケありでして」

「なるほど、それで普段は名乗っておられないのですね」

「そういうことです」


 リディさんはふむふむ、と頷いている。気になったことは確かめずにいられない性格なのだろうな

「親方、さっきやってたのって私たちもやっていいですか?」

「ん? ああ、構わんぞ。別に秘儀とかでもないし」


 リケがおずおずといった感じで聞いてきたが、こういうのは家族全員でやったほうがいいので、俺は快諾した。「私もいいですか?」とリディさんが言うので、こちらも快諾しておいた。


 4人に二礼二拍手一礼を教えて、俺はさっきもやったがもう一度やる。獣人とドワーフと人間とエルフ。出身も種族も違う人々がこうやって同じことをしているのは、「いただきます」の挨拶のときも思ったが、グッと来るものがあるな。

 こうして我が家にまた1つ、"いつも"が増えるのだった。


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