リディを迎え入れる最初の挨拶は済んだので、今日はもう皆仕事を休みにして歓迎会をしようということになった。
その前にそれぞれ皆それなりに汚れているので、先に汚れを落とすことにした。この魔力併用かまどで湯を沸かすのもなんだか懐かしい気がしてくる。
沸かした湯をそれぞれに配って、各自の部屋で体を拭いて汚れを落とす。リディはしばらくは来客用の部屋が自室だ。
やはりと言うか、我が家唯一の男である俺が一番早く体を拭き終える。とりあえずは夕飯の用意を始めるか。
10日間のブランクがあるが、逆に言えばたったそれだけでしかないので、十分に体は動きを覚えている。ただ体が半分勝手に動くのと、懐かしい感じがするのとは別の話なのも確かだ。
女性陣はリケとリディが最初に居間にやって来た。鍛冶仕事もなかなかに汚れるし、汗もかくからなぁ。
「親方には休んでいただいたほうが」
とリケが言うのを
「これも久しぶりだからやらせてくれよ」
と断ったりする。今日は移動だけで他には疲れるようなこともしてないし、リケはちゃんと仕事してたんだから、その分休んでくれて良いのに。
「リディと魔力の勉強をするのはどうだ。これからは教えてもらい放題だぞ」
それを聞いてリディが頷く。人に教えるのが好きっぽいとは思っていたが、どうやらその印象は間違っていなかったようだ。
リケもその誘惑には抗えなかったみたいで、リディと居間のテーブルで横並びに並んで魔力の流れを見る方法、というのをはじめた。
それを見て俺は再び夕飯の準備に戻る。こういう光景が新しいいつもになると良いなと思いながら。
スープの仕込みが終わったので無発酵パンを作ろうと準備を始めた時、チラッと居間の方を見ると、サーミャとディアナも居間に戻ってきてリケとリディの勉強会に加わっている。
見ている感じではリケが一番飲み込みが良くて、次がディアナ、サーミャといったところか。これは種族的な魔力との相性の違いも結構ありそうな気がする。
そんなこんなの間に夕飯が完成したので、皆でテーブルに並べていく。
流石に昨晩食べたエイムール邸での食事のような豪華さ(と言っても家風が家風なのでかなり質素なほうらしいのだが)はない。リディも食べたことがあるエイゾウ工房のメニューと味だ。歓迎会なので果実を漬け込んだブランデーなんかも大盤振る舞いする。
歓迎会は結局俺の遠征報告会も兼ねてしまった。3人が聞きたがったからである。洞窟での戦闘はこの3人にはごまかす必要もないので、俺が倒したことは正直に話した。
リディがうちに来ることになった経緯も、遠征報告の流れで話すことになった。
「ここには私たちもいるからね。何でも言ってね」
それを聞いたディアナが泣きそうな顔でリディに言っている。リディ以外ではサーミャが微妙ではあるが、皆自分の意志でここに来てるからなぁ。選択肢のない状態でここに来ざるを得なかったのはリディだけだ。
「男はエイゾウだけだし、気楽に過ごしていこうや」
「サーミャはもうちょっと淑やかさを学んだほうがいいと思う」
サーミャとリケもリディを励ましている。むくれたサーミャをリケがからかったり、それをディアナがなだめたりして、見ているリディも笑ったりしている。
これからの生活は多分きっと上手くいく。根拠はないが、俺にはそう確信できた。
翌日、久々に自分のベッドで眠ることが出来た俺は、スッキリとした気分で水汲みに出かけた。森の朝の空気が気持ちいい。湖で水を汲んで戻ってくると、リディが木に手をおいて魔力を摂取していた。
「おはよう。リディ」
「おはようございます」
昨日の歓迎会の時、リディに敬語はいらないと言ったのだが、「これが素の口調」とのことだったのでそのままだ。
「昨日の今日だが、生活に不安とかあったらすぐに言ってくれよ」
「みなさん親切ですし、前に来た時を考えたら不安はありません」
「そうか。それならいいんだ」
それで再びお互いの作業に戻る。リディとはこんな距離感で接することが増えるんだろうな。
朝の支度やらメシやらを終えて、今日から鍛冶仕事を再開する。
「と、その前に」
俺は遠征のときの荷物から、遠征中に作った女神像を取り出して、神棚に
「こんなのいつ作ったんだよ」
サーミャが呆れた口調で言ってくる。
「遠征の行き道でだよ。時間があったからな」
「親方こういうのも作れるんですねぇ」
「なかなか
「そこはかとなく魔力を感じます」
女性陣に口々に品評されてはいるが、不評ではないので、そのまま全員で拝礼をした。
さて、今日も頑張りますか。