しかし、刀か。元日本人としてはちょっとテンションの上がる依頼内容ではある。
ただ、刀とは言っても、ちゃんとした日本刀は作れなさそうな気がする。
製作はチートを使ってだが可能として、この世界で俺がチートを使うと材質が玉鋼と同じものにはならない。わざわざ特注モデル品質の鋼を高級モデル品質の鋼で覆う、ってのは意味がないしな……。
ただし、リケの修行もあるので、これも意味はほぼないが特注モデルの鋼を特注モデルの鋼で覆う形式をとる予定にする。
「よし、それじゃあちょっと庭に出るか。お前さんの得物を持ってきてくれ」
俺はニルダに声をかけた。
「どうしてだ?」
「得物の扱いやらを見て、長さとか重さなんかを決めるんだよ」
「なるほどな」
ニルダは作業場を出たかと思うと、すぐに戻ってきた。手にはちゃんと剣が握られている。
俺は作業場側の扉を開けて外に出た。後からニルダがついてくる。ここや庭で俺に斬りかかるメリットはニルダにはないが、念の為に変な動きをしたら対応できるように、ナイフの位置を変えておいた。
「きゃっ!」
庭に出た瞬間に、ニルダが短い悲鳴をあげた。クルルが扉のすぐそばにいたからだ。
「なんだ、出てきてたのか」
「クルルゥ」
「よしよし。危ないからちょっと離れててな」
俺が頭を擦り付けてくるクルルの首筋を撫でながら言うと、クルルは素直に少し離れた場所に座り込み、ついでと言わんばかりにその辺の草をついばみはじめた。おりこうさんだ。
「そ、そういえばお前の家には走竜がいるんだったな」
「会った時に荷車牽いてただろ」
「あ、ああ。しかし、随分と懐いているな」
「普通の走竜もこうじゃないのか?他の走竜を知らないから分からんが」
「魔界にも走竜はいるが、もっと気が荒い。全く言うことを聞かぬ程ではないが、よくヘソを曲げるから扱いづらいのだ」
「へえ。走竜によってそんなに違うのかね」
「分からぬ。少なくともお前の家の走竜と違うことは確かだ」
「ふぅん」
俺は余り興味のないような声を出す。だが、なんとなくの察しはついた。走竜は今クルルが草を食べているように、普通に餌と認識されるようなものも口にするが、本当の食料は魔力だ。
魔族は澱んだ魔力を身に受けて生まれると言うし、おそらく魔界の土地は澱んだ魔力が多いのだろう。その魔力を食料として摂取しつづけると、気性が魔物よりになってしまうのではなかろうか。
これらはすべて推測に過ぎないが、クルルと魔界の走竜との気性の差がかなり大きいのだとすると、魔力の質の差が違いにつながっている可能性は高いように思う。
しかし、そうなると魔界は魔物とかバンバン生まれているんだろうか。ニルダがもう少し俺たちに慣れたら(そして俺たちがニルダに慣れたら)聞いてみるのも良いかも知れないな。
「ここで振るえばよいのか?」
「ああ。演舞でも訓練でもいい。なるべく実戦に近い動き方のほうが参考にはなるが」
「あいわかった」
ニルダは頷くと、剣を抜いて振りはじめた。やはりヘレンには及ばないが、ディアナと比較すれば少し上くらいの実力だな。
ただ、刀のようなものを欲しがっているのに、今振るっているのは普通の剣である。刀を作るのに支障はないが、なぜだろう。聞いてみるか。
「さっき欲しがっていたのと、今振るっているのとは形が違うようだが?」
「同じ形のは“迅雷”に壊されたからだよ。これはそれなりに使えるが、間に合わせだ」
剣を振るいながら、ニルダが不機嫌そうな声で答える。そりゃそうか。
「変なことを聞いてしまってすまない」
「いや、いい。そもそもが私の未熟ゆえだ」
そうして四半時程の間、剣を振るうニルダを観察した。
「じゃあ、長さはこれくらいか」
俺は両手で長さをニルダに示す。脇差と呼ぶには少し長いくらいの長さだ。小太刀と言えばいいだろうか。
「少し短くないか?」
「お前もヘレンと同じで速い動きだろう?短めで動きやすいほうが良さそうだと思うが」
「ふむ」
「なので重さも軽めのものを作る。この辺は出来てから調整もするが」
「わかった。任せよう」
これで最終的な形は見えた。あとは作るだけだ。
俺はクルルにまた後でなと声をかけ、鳴き声を背にニルダと作業場に戻った。