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挽肉を焼いたアレ

 腹が減りっぱなしで早めに食べたいのは山々なのだが、折角なので美味いものも食べたい。なので、ここは俺も含めて我慢してもらって準備を進める。


 まな板を準備してその上でナイフを使って猪肉を刻んでいく。どう頑張ってもちゃんとしたミンサーを使うほど綺麗には出来ないが、なるべく細かく刻んで挽肉にする。

 できた挽肉を木製のボウルに入れてねるが、玉ねぎもニンニクもないので、塩コショウだけ加えて捏ねる。少し粘りが出て形が作れるくらいになったので、5つに分けて塊にし、真ん中にくぼみを作っておいた。

 かまどに火を入れて中火くらいに調整する。ガスコンロだとつまみで調整できるし、IH調理器ならボタンだが、このかまどでは基本的には木炭での調整なので微調整が難しい。ある程度の焦げやなんかは許容してもらうか。


 温まった鍋の底に猪の脂をひいて、その上に挽肉の塊を並べる。

 3分ほど焼いたらひっくり返して火酒を少し入れて蓋をしてまた3分待つ。前の世界だと中がレアのやつが流行ってたが、流石に野生の猪の生焼け肉を食べる勇気はない。

 かまどに炭を足して蓋を開けると、フワッといい匂いが漂ってきた。もう少しだけ焼いて仕上げだ。


「おおー」


 出した料理――イノシシ肉のハンバーグ(正確にはハンバーグのようなもの、だが)を見て、サーミャが目を輝かせる。かかっているソースはいつもステーキのときに作るやつだ。個人的には目玉焼きかチーズが乗っていれば完璧だったが、ないものは仕方がない。


 皆で「いただきます」をして食べ始める。


「似たようなのは前に食べたけど、こういうのもいいわね」


 ディアナが感想を言った。伯爵家ともなるとそれなりに色々なものを食べてきたらしく、料理についてはなかなかに詳しい。


「やっぱりあるのか」


 まぁ、屑肉や硬い肉を柔らかくするために刻み、生だと怖いので中に火が通るまで焼くってのは発想として凄いかと言うと、当たり前なようにも思えるしなぁ。


「なんかもっと雑だったけどね」


 刻んだ肉を丸めただけとかだろうか。と言っても、作り方だけ言えばさほど違いはない。だからこそ前の世界ではもうちょっと先の時代のものであろうハンバーグを作ったんだけどな。


「私の実家の方ではこういうのはなかったですね。元々肉と言えばほとんど干し肉だったというのもありますけど」


 そう言ったのはリケである。生肉が手に入りにくいと工夫するにも限界はあるよな。前の世界の金華ハムだと専門のレシピ本があるほどだと聞くので、干し肉用のレシピもこの世界にはいっぱいある……と思う。

 ただ、前の世界のイメージに引っ張られて、ドワーフが繊細な料理をしているイメージがない。以前、似たような話になったときにはドワーフが多く住む街にはドワーフの料理人もいるということだったので、実際には繊細な料理もこなすのだろうが。


「里でも肉はあまり出なかったので、私もこういうのは初めてですね」


 今度はエルフのリディだ。こちらも菜食主義のイメージがあるので、そういうことかと思っていたが別にそんなことはなく、食事は畑からとれるものでおおむねまかなえてしまうため、外から来た人はそういう印象をもつだけなのだ。

 実際にうちだと生か塩蔵かはともかく毎日肉が出るが、リディは普通に食べるし調子が悪いということもない。


「今日はみんなだいぶ腹が減ってたから、それでうまいのもあるだろうけどな」

「いや、これはうまいと思う!」


 サーミャが声高に主張する。よっぽど気に入ったらしい。


「わかったわかった。今度はもう少し時間のあるときにな」


 柔らかくてしっかり猪の肉の味がするハンバーグはうまいのだが、どうしても下ごしらえに時間がかかるのが難点ではある。

 鍛冶屋だからミンサーも作れるんだろうけど、少し先取りしすぎな気もするので今のところは見送りである。

 そのあとは皆でどういう料理を食べてみたいかについて話しながら楽しく食事をした。

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