翌朝、拝礼の後で女神像を懐に入れて荷物を持ち、クルルの牽く荷車に皆で乗って森の入口まで行く。少しとは言え板金もあるし、皆とはしばらく離れることになるしな。
森の入口についたら、少し奥まったところで街道の様子を伺う。雨期の到来を告げるものだろうか、遠くに重たそうな雲が見えている。
時折、行商人のものらしき馬車や隊列、徒歩で移動する旅人が通り過ぎる。本格的な雨期の前になるべく遠くまで移動しておきたい、というのは分からないではないな。道が
やがてそれらよりも早い速度の馬車がやってきて、森の側に停まった。普通、修理なんかをする場合は多少でも安全な草原側に停めるのだが、こちら側に停めたということは……。
「カミロ」
荷物を持ってそろりとその馬車に近づき、俺は声をかけた。
「おう、いたか」
見慣れた顔が馬車の上から顔を出す。
「ああ。手伝ってくれ」
板金を収めた箱をカミロに手渡して引き上げてもらう。そのまま俺は馬車に乗り込んだ。
今ならまだ他に通行するものもいない。その間に出発してしまうことにした。荷台に立って森に向かい手を振る。うちの家族が手を振ってそれに応えてくれたのを確認すると、俺は荷台に座り込んだ。
馬車が走り出す。いくらか進んだところで、俺は違和感に気がついた。
「こいつは……サスペンションを搭載してるのか」
さっき乗り込んだときにはよく見ていなかった。いや、もしかするとパッと見にはわからないように擬装していたのかも知れない。
「ああ。ようやくそれなりに使える目処がついたんでな。まだ量産の目途はついてないから、真似をされないように隠してるが」
俺のほとんど独り言のようなつぶやきに、カミロが答える。ゆらゆらと揺れるが、以前のようなガツンとくる突き上げは来ない。
「これが魔物討伐隊の馬車にあれば、腰の痛みももう少しマシだったんだろうがな」
「そのうち売り込むつもりだから、もし次があれば搭載車に乗れるかもな」
「次がないように祈りたいところだがね」
「それはそうか」
カミロが笑い、俺も笑った。なるべくならああいうことはあんまりやりたくないものだ。俺はただの鍛冶屋だからな。
街道を馬車が走る。普通の馬車なら荷物を積んでいないかのような速度だ。
「この速さなら帝国へは思ったより早く着くだろうが、それでも数日はかかる」
カミロがそう言う。
「だから、これからの道行きで細かいところの話を進めていこう」
「わかった。そもそも侯爵が依頼をした理由も知りたいしな」
「ああ。それは簡単だよ。帝国への派遣の依頼人が侯爵だからな」
「それだけで使い捨てのはずの傭兵を救出する依頼とは、随分と義理堅いな」
「……まぁな」
この口ぶりではそれだけではないってことか。言わないということは俺が今知ることは避けたほうが良いんだろう。
俺は馬車の座席に深く座り直して、他の話題を始めるのだった。