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出発準備

 カミロの店を出たあとは、そのまますぐに街を出た。街道も警戒はするが、最低限に留めて家に帰る速度を優先する。森の中でも同じだ。

 森の中も全速力……だと荷物が跳ねたり、俺達も厳しいのでそれなりの速度で走り、過去最高速で帰り着いた。


 荷物を片付けて、クルルの労をねぎらう。かなり急がせたにも関わらず、クルルは平気な顔をして「クルルル」とご機嫌に鳴いている。

 魔力もエネルギー源になっている、とリディが言っていたが、もしかしてそれも影響しているんだろうか。

 興味は尽きないが、今それを試している時間はない。明日の朝くらいにはもう出発しないといけないのだ。その準備が必要なので、慌ただしく家に引っ込む。


 猪の干し肉を多めに切り分ける。食うものは大事だ。後は前の遠征のときに持っていった包帯代わりの布切れやらを、背嚢はいのうに詰め込んだ。


「他に必要なものは何かな」

「親方は鍛冶屋として行くんですから、その道具がいるのでは?」

「そりゃそうだ」


 愛用の鎚と、残っている板金をいくつか見繕って空いていている箱に入れる。これで出かける準備自体は良いかな。


「で、詳細は説明するまでもないが、またお出かけします」


 夕食の時に皆を見渡して俺は言った。


「今回は期間がわからない。1週間後には帰ってるかも知れないし、1ヶ月くらい帰ってこないかも知れない。流石に1ヶ月を越えることはないと思うがな」


 そんなに時間をかけていたら、その間に革命が起きてしまうし、そうなったらヘレンの命があるかはかなり怪しいものだ。リミットとしてはそれくらいが最長だろう。


「その間、なにか心配なことはあるか?もし必要なものが出そうならカミロに言って、森の入口に配達させるが」


 俺の言葉に皆が考え込む。最初にサーミャが口を開いた。


「肉は平気だろ」

「森の中で食べられる植物は私が分かりますし、畑もありますから」


 リディがその後を引き取る。


「強いて言えば鉄石や炭ですけど、倉庫にもある量を考えたら1ヶ月くらいはなんとかなりそうに思います」


 お次はリケだ。毎回消費量以上を仕入れていた甲斐はあったということか。倉庫も建ててからそんなには経ってないが、建てておいてよかった。


「家の補修とかになっても、私たちでできるしねえ。大丈夫なんじゃない?」


 最後にディアナがそう締めくくった。


「じゃあ、特に心配することはないか」

「逆にあなたが心配だけどね」


 俺が言うと、ディアナがそう返す。


「いっつも本業とは違う依頼をホイホイ受けちゃうんだから。前も怪我して帰ってきたでしょう?」


 それを言われると申し開きのしようもない。俺が少し身を縮こませると、要因の1つであったリディも同じようにしている。


「あ、別にリディが悪いってわけじゃないのよ?エイゾウはもう少し自分を大事にしたら、ってこと」


 ディアナの言葉にサーミャとリケがうんうんと頷く。


「あなたの選択だから引き止めはしないけど、無事に帰ってきて欲しいというのが家族の総意なのは忘れないでね」

「わかってるよ」


 彼女たちの心配そうな顔を見て心配させないようにしようとしたが、俺は少しウルっときそうになったのをグッと抑え込んで、笑ってそう言うのが精一杯だった。

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