「ヘレンが!?」
俺は驚きを隠さない声で言った。なんせ俺よりも遥かに強いし、持っているのは俺の特注モデルのショートソードなのだ。その辺の連中に遅れを取るようには思えない。
「どういう状況だったのかは分かってないんだがな」
「普通に戦闘に負けて、ではないよなぁきっと」
「少人数同士ならな。大人数相手なら分からんぞ」
「ああ……」
一騎当千の英雄とて、単騎で万軍に勝つことは難しい。そんな状況だったんだろうか。だがそうは言ってもだ。
「ただ、あいつを捕まえるほどの軍勢が動けば目立つはずなんだが、そんな情報もないんだよな」
そうなのだ。そんな状況ならカミロの耳に入らないはずがない。今回の革命も把握していたくらいなのに。
「隠蔽された?」
「かもな。もしくは何か別の要因があったのか、だ」
「ふうむ」
俺は唸って腕を組んだ。ただの客と言えばそれまでだが、数少ないこっちの世界での知り合いでもある。なんとかしてやりたいところだが、立場的にはあくまで鍛冶屋だからな。
「こんな話をしたのはだ」
そう言いながら、カミロは身を乗り出した。
「侯爵閣下のご依頼でな。“帝国に行っても怪しまれない人間を派遣して彼女を救出して欲しい”だそうだ。で、俺が思い当たる人間でそれができそうなのは1人しかいない」
「……俺か」
カミロは頷く。
「鍛冶屋にそういったことを頼む、てのが随分と
「なるほどねぇ」
あとは俺が受けるかどうかか。ちらっとうちの皆の方を見てみると、「やるんでしょ」みたいな顔をして俺を見ていた。失敬だな君たち。
「わかったよ」
ため息をつきつつ、俺はカミロに返事をする。
「いつもすまんな」
「いいよ。いつもの仕事……ではないけど、ヘレンは知らないやつでもないし」
それに、侯爵閣下のご依頼となれば、カミロも「ダメでした」とは言いにくいだろう。これで侯爵には鍛冶の腕前の上限はともかく、普通でないことは完全に筒抜けになると思っていいだろうな。
そうなったらそうなったで、それを前提として出来る限り利が出るように振る舞うだけだ。
その後、帝国に向かうための打ち合わせをカミロと続けた。当然だが早いほうがいいので、明日早々にも向かうことになった。「行商にくっついて、色んな修理をしている鍛冶屋」というのがカバーストーリーだ。
これに沿うなら簡易の炉などが必要だが、それらはカミロが用意する。向かうときの馬車もカミロのところの馬車で、以前に都に乗り込んだ時と同じ方法で落ち合うことになった。
細かいところはその道行きでする。ヘレンが捕まっているおおよその場所の見当もついているらしいが、そこを探ることもしなければいけないし、救出作戦の詳細は見つけてから立てるよりないからな。
そこまでを話して、俺達はバタバタとカミロの店を後にした。さて、本業じゃないが忙しくなるな。