外に出てみると、辺り一面が騒々しくなっている。
夜だが当然街灯なんてものはなく、あちこちを人魂のように松明が行き来しているのが見えるだけだ。その周囲が明るい。
俺はカミロに声をかけた。
「どうする?」
「正面から押し込むが、そこまで行けるかだな」
カミロが答える。あちこちに革命軍(?)がいてそこそこの明るさがあるし、晴れてもいるのでなんとか見えなくもない。
しかし、昼間行ったようにスムーズにとはいかないだろう。一刻を争うときにそれはいかにも痛いようには思う。
「売り物の松明を持って、火をつけずに行けるところまで行こう。途中で革命の連中と出くわしたら、連中に加わるふりをして火を貰おう」
カミロがそう提案し、俺とフランツさんは頷いた。フランツさんは暗闇の中を素早く走っていく。
真っ暗に近いのに随分と身のこなしが素早い。
「なあ、フランツさんって普通の御者さんじゃないだろ?」
フランツさんが見えなくなって、俺はカミロに聞いてみた。
ただの御者にしては色々と出来ることが多すぎる。色々出来る鍛冶屋が言うことではないかも知れないが。
「ああ……。まぁ、そういうことだ」
カミロは詳細は濁したが、いずれにしても本職が御者でないことは違いない。
色々出来る鍛冶屋と色々出来る御者、そしてあちこちに繋がりのある行商人。
素性を知ればこれほど怪しい3人もなかなかいない。今この街の衛兵達はそれどころではないだろうが。
フランツさんが戻ってきた。手には3本の松明を持っている。あの暗闇の中的確に物を探して持ってくるのは並大抵の腕前ではなさそうだ。
「よし、急ごう」
誰ともなくそう口にして、可能な限りの速度で宿屋から駆け出した。
先導はフランツさんが行う。全く迷いのない歩みについていくだけで精一杯だ。
やはり昼間に走るような速度は出せない。せいぜいが早歩きくらいまでだ。一刻も早く灯りを貰いたい。
「あと半分くらいです!」
フランツさんがそう言ったとき、通りの角に灯りが差した。革命軍ならいいが、衛兵だと少し厄介ではある。
俺が腰に提げておいたショートソードを抜くと、フランツさんは少し離れたところに位置する。
はたして、角から出てきたのは革鎧を着て、抜身のロングソードを携えた2人の男であった。
革鎧に紋章はない。衛兵なら前の世界の警官のバッジのように、自分を雇っている家なりこの街なりの紋章が入っている。
それがないということは……。
「革命の同志か」
カミロが男たちに声を掛ける。その言葉で仲間であることはアピールしたが、男たちはまだ警戒を解かない。
「大丈夫だ、俺たちはさっき加わって、倉庫街の方に行く。すまないがその火を分けてくれ」
カミロが男たちの持っている松明を指差す。俺も敵対の意思がないことをアピールするためにショートソードを鞘に収める。
すると、男たちは松明を傾けてこちらに向けてくれた。フランツさんがそこに松明を近づけて火を移す。
男たちはまだ警戒をしながらもそこを去っていった。革命軍だったのか火事場泥棒だったのかはわからない。
だが今はどうでもいいことだ。これで移動速度があがる、それだけが重要だ。
灯りを得た俺たちの移動速度は上がる。先程までの早足くらいから、駆け足くらいだ。
この速度の差のおかげか、昼間に行ったよりもやや遅いくらいの速度で倉庫に辿り着いた。
倉庫の周りでは男たちが慌ただしく動いている。もうヘレンは移送されてしまっただろうか。
それらを確認するためにも、俺は倉庫に踏み込まねばならない。
「押し通る!」
松明が近づいて警戒する男たちに、俺は大声で叫んだ。