目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

「降ってきたのか」


 チラホラと落ちてくる雪を見て、俺は言った。ハーッと大きく白い息を吐いたディアナが隣に来る。


「積もるかな?」

「どうだろうな。これくらいだとあんまり積もらなかったりした記憶があるが」


 とは言え、それも前の世界の知識である。大きめのが降って地面を冷やし、その後粉雪に変わると綺麗に積もったりしていた。

 今降っているのは大きめのではあるが、雪量がそこまででもないので果たして積もるかどうか。


 ふと見れば、うちの娘3人がはしゃぎ回っている。ハヤテはもう立派に成人ならぬ成竜しているらしいのだが、幼子に交じっていると童心に帰るのだろうか。

 いや、はしゃぎ回っているのは娘たちだけではない。娘“さん”たちもである。サーミャとヘレンとアンネが一緒になって走り回っていた。

 リディは傍らで手のひらに雪を受け止め、興味深そうに眺めていて、横からリケが覗き込んでいる。


 ルーシーが器用に降ってくる雪をヒョイパクヒョイパクと口に入れはじめた。雪って核になる粒子があるから、見た目に反して綺麗なものでもないのだが、あんまり目くじらを立てるのも野暮だろうか。


「あんまり食べ過ぎると、お腹壊すからほどほどでやめとくんだぞ」


 俺が言うとルーシーはこっちを見て、


「わん!」


 と大きな一声をあげる。そのあと、あまりヒョイパクはせずに、クルルやハヤテと純粋に舞う雪を追いかけ始めたので、どうやら理解はしたらしい。

 肩に連続した衝撃を感じながら、俺はこの後の作業に使う道具や材料を取りに、鍛冶場に引っ込んだ。


「よーし、それじゃあ始めるか」

『おー!』

「クルルルルル」「わんわん!」「キュー!」


 寒さが辛くなってきたらあたるための焚き火を前に宣言すると、元気の良い返事が返ってきた。雪の寒さでテンションが下がっていたらどうしようかと思ったが、完全な杞憂だったようだ。

 皆分かれて、ここが良さそうだ、あそこはどうだと話している。


 あれから雪は降り続いていて、うっすらとだが地面を白く染めている。勢いはかなり弱まってきたので、1センチも積もったりはしないだろうが。


 ふと、前の世界のテレビ番組で、雪の森の中でツリーハウスを作っていくのがあったことを思いだした。


「ツリーハウスか……」


 ツリーハウスと言えば、なんとなしログハウスに次いでスローライフの代名詞のような感じもするな。アメリカなんかだと子供の秘密基地的なものとして親が作るんだっけか。

 うちの場合はクルルの体格が体格なので作っても入ることは難しそうだ。

 どっちかというと、大人達がのんびり過ごす離れのようになるだろうか。


 いや、多分同じ番組でやっていた動物観察小屋みたいになるな。寄ってこないだけで動物多いし。

 もしくは監視小屋だ。状況から考えると、その目的でなら作っても良さそうな気がしてくるな。そのうちヘレンかアンネに相談してみるか。

 単に作りたいだけ、というのも否定しにくいところだが。


「1つはここにしましょう」


 俺とディアナ、そしてリディがここでもない、あそこでもないとワイワイやりつつ家から離れながら検討し、やがてリディが指し示したのは、冬の時期になお青々とした下生えを残す一角だった。

 ここだと家からギリギリ見えなくもない場所で、「聞こえたかも」と思わせられるし、逆に警報装置があることによって家の位置をバラしてしまうこともなさそうだ。


「じゃ、ここに罠を張るか」


 俺が言うと、2人は頷いた。

 テキパキと縄を張る2人を見ながら鳴子をササッと組み立てつつ、これが役に立つようなことがあんまり無いと良いのだけどな。俺はそう思った。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?