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冬の森へ

 それから3~4日は“いつも”のとおりに過ごした。その間はマリベルが帰ってくることもなければ、カミロから続報が来ることもなかった。先に控えた納品日に向けて淡々と製品を作っていくだけだった。

“新聞”の状況も気にはなるが今はそっちにリソースを当てられる状況ではないだろうしなあ。


 その日の仕事を終え、片付けをしていると作り終えた品が山積みになっているのが目に入る。

 俺は同じく片付けをしていたリケに言った。


「うーん、結構な数になったな」

「そうですねぇ」


 あれやこれやしつつではあったが、集中して作った製品はそれなりの量になっている。流石に6週間分と言うにはいささか心許ない量だが。


「今更だけど、クルルは牽けるかな。俺たちも乗るわけだし」

「うーん」


 リケはおとがいに指を当てる。


「大丈夫だとは思いますよ。行き帰りに見ててもまだ余裕がある感じしますし」

「ふむ」


 普段クルルが牽く竜車の手綱を握っているのはリケだ。その彼女が言うのであれば確かだろう。ちょっと重い方がクルルは張り切るっぽいのもあるし。


「重いのは行きだけだし、いざという時は俺たちで担いで歩こう」

「遅くなっちゃいますけど、その時はしかたありませんね」


 ある程度はマンパワーでなんとかするしかなさそうだ。幸い、うちの家族はみんな一騎当千である。荷物を抱えてクルルと同じ速度というわけにはいかないだろうが、一般的な人より早く進むことができるとは思う。


「そう言えば、荷車がないときは俺が担いで行ってたなぁ」

「ああ、そうでしたね」


 あの頃はほぼ1日くらいかかっていたように思う。それから比べると随分と往復が早くなったなぁ。

 今回は帰りは早いし、行きがちょっと遅れるくらいなら問題ないだろう。他のみんなにもとりあえずそのつもりでいてもらうか。


 夕食の時にみんなにその話をした。人によって程度は違うが、みんな察してはいたようで、特に異論は無いようだった。

 むしろディアナなどは、その時になって判断するのではなく、最初からそのつもりでいたほうが良いのではと提案するくらいだったので、俺が言い出すまでもなかったみたいである。


「あれ、それじゃあ、明日はちょっと時間空くのか?」


 一通り次の納品の時の話が終わったところでサーミャが言った。俺は頷く。


「暇かと言われたら当然そうじゃないけど、休みを入れる余裕はあるな」


 元々、毎回納品する数も確約はしてないのである。なんとも気楽な契約だが、それで良いと言ってくれている間は甘えておこう。いつかキッチリ決められるようになるとも限らないのだし。

 などと考えていたら、サーミャが少し身を乗り出すようにして言った。


「じゃ、みんなで一緒にちょっと森へいこうぜ」

「森へ?」


 獲物がいないから家にこもっている、と聞いていたが、狩りにでも出るのだろうか。

 俺がそんなようなことをサーミャに聞くと、


「獲物はいないんだけど、森の様子が変わってないか見にいきたいんだよな」


 とのことだった。向こう5週間ほど全く森の様子が分からないまま、狩りに復帰というのもリスクがあるか。


「分かった。じゃ、明日は空けておくよ」


 出ている間にカミロの手紙……つまりはアラシが来るかも知れないが、丸々1日待たせるようなことにはならないだろう。

 それこそドラゴンに命を狙われるとかでもなければ。


 明日遊園地に行くぞ、と言われた子供のようにあれこれ話をして盛り上がるみんな。この賑やかさのためなら、もし1日分の納品が減ったとしても、行く価値はあるな。俺はそう思うのだった。

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