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友人宅の夜は明けて

 残念そうな、しかしどこかしら安心したような笑顔のまま、マリウスは言う。


「これは念のための確認だけど、家のほうは大丈夫なんだな?」

「そこは結構自信があるから、安心してくれていい」


 完全に数で押されたら厳しいが、そもそも数を揃えるのが難しい土地だしなぁ。

 警戒は、鳴子や罠なんかのシステム的なもの以外に、うちの娘達もいる。

 うちの娘はみんな繋いだり閉じ込めたりしていない。小屋はあるが開け放っているので、自由に出入りできるから、何かあれば教えてくれるだろう。

 まぁ、一番早く感知しそうなのはヘレンだけれども。傭兵の第六感はバカにできないだろうし。


「わかった。こっちでもう少し予兆が見えたら、すぐに知らせることにするよ」

「そうしてくれるとありがたい」


 俺は本心からそう言った。


「そう言えば、マリウスの家では小竜は使ってないのか?」

「最近使い始めた」


 マリウスはふふん、と若干自慢げにしている。


「カタギリ家から友誼のしるしにとこないだ貰った。北方は小竜がたくさんいるのかな?」

「どうだろうなぁ」


 特に北方に多い、という情報はインストールにもない。カレンの家で育てているとかっぽいが、確定情報ではないので言わずにはおいた。


「ツジカゼとマイカゼ、という名前だそうだ。うちにいるのはマイカゼのほうで、ツジカゼは街のカミロのところにいる。大抵は街への連絡だし、エイゾウのところへ連絡するにしてもカミロ経由のほうが何かと都合がいいからね」

「なるほど」


 元々そうしていたのが小竜にお願いするように変わるだけではあるな。速さ(早さも)が段違いだろうけど。


「じゃあ、何かあったら小竜で連絡する」

「うん、そうしてくれ」


 マリウスはそう言って、身を翻した。今夜のおしゃべりはこれでおしまい、ということだ。

 俺はその後をゆっくりと追いかける。隠し階段を降りると、そこにはボーマンさんが待っていた。

 ボーマンさんがマリウスに目配せすると、マリウスは頷いた。


「それではエイゾウ様」

「ええ、お願いします」


 俺はボーマンさんにペコリと一礼をする。ここが家のどの辺りなのか、ディアナなら当然ながらわかるだろうが、俺はさっぱりだからな。


「それじゃ、また」

「ああ、明日」


 俺とマリウスはそう言って別れた。さて、次は明日かな。


 翌朝、空は気持ちよく晴れ渡っていた。「話し合い」は屋内だろうから天候は関係ないといっても、どんよりと曇っているよりは、良い天気のほうが気分は良かろう。


 朝食も賑やかに皆でとった。話題は昨晩に引き続いてペット(?)の話題である。


「そういえば、この家にも小竜がいるんですよね?」

「ええ。でも連絡が必要なときに疲れてるといけないから、一緒には遊べないの」

「ああ……」


 しょんぼりするジュリーさんに、俺は同情の嘆息をした。


「うちと違って、都は離れてるもの。仕方ないわよ」


 慰めるディアナ。帰ってきたのは小さめのため息だ。

 都や街では魔力の補給も難しいから、なるべく体力を消耗させない方針は仕方ないのは確かだろう。


「でも、走竜と犬ちゃんがいれば……」


 どうやらジュリーさんはそちらで欲求を満たすつもりのようだ。大きくため息をつくマリウスに、俺たちの笑い声、賑やかな朝食の時間はこうして過ぎていった。

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