「おっ」
ピコピコと耳を動かしてサーミャが反応したのは、もうすぐ昼食になろうかという頃合いだった。
ちなみに時間は日の傾き加減(この部屋には窓があった)と、信頼と実績の腹時計からの算出である。
「終わったか?」
「たぶん」
俺の問いに答えたのは、サーミャと同じく察知したらしいヘレンだった。少しすると、扉の外の空気が俄に慌ただしくなったのを、俺もわずかばかり感じ取った。
「ああ、どうやら、ご出立のようだな」
俺が言うと、サーミャとヘレン以外もその音を聞いたのか、皆頷いた。
「騒いでいる様子もなかったみたいだし、クルル、ルーシーとハヤテはお利口さんにしてたのね」
「あとでたっぷり褒めてやらないとな」
「そうね」
そういえば、あの3人の好物ってなんだろうな。好きなことが「みんなと遊ぶこと」なのはほぼ間違いないのだが。
ルーシーが肉を好むのは間違いない(時折野菜も食べてはいる)として、クルルは何でも食べるし、そもそも森にいる間はそんなに食べないから「多少食欲がなくてもこれなら喜んで食べる」ようなものが分からない。
クルルと同じくドラゴン系で魔力の影響があり、普段あまり食べないハヤテ(彼女の場合はそもそも身体が小さいこともあるが)もいまいち好みがわからない。
3人がそれぞれよく食べたものはなにか、あとでそれとなくマティスに聞いておこうかな。
「そういえば、アンネさんはこちらにもどってくるんでしょうか。そのまま帝国に帰っちゃったりしないですよね」
ポツリと小さな声でリディが言った。みんなが複雑な表情になる。
みんな、どこかでそこに思い至ってはいたのだろう。俺も意識していなかったと言えば嘘になる。
ただ、それを意識するとそうなってしまいそうで、なんとか認識の隅へと追いやっていた。
アンネの立場と事情、現在の状況を考えれば、このまま帝国に戻るのが自然だろう。
帝国側の参加者で一番偉い人であるからにはそのまましゃなりしゃなりと帝国まで帰るものだ……と、少なくとも王国側の一番偉い人は思っているだろう。
帝国からはるばるやってきた皇女殿下だし、暇であるならお見送りもあるかも知れない。
そうなったら、帰るより他にないのではなかろうか。そうなれば、人質であることは一切公表されていないアンネは帝国から戻る義理はないし、もし本人が望んでも「それではいってらっしゃい」とはならんだろうなぁ。
いや、皇帝陛下がちゃんと義理を通してアンネを王国に戻す可能性は結構ありそうだな。
しかし、その時に〝黒の森〟へ帰ってくる保証はなにもない。
だが、希望半分で俺は言った。
「なんだかんだで礼儀正しいし、挨拶はしていくんじゃないか?」
「皇女様ですしねぇ」
のんびりとした言い方でリケが引き取った。
「ですよね!」
そしてフンス、と鼻息を荒くするリディ。多くは言わないが、サーミャとヘレンも同じことを思っていることが表情から窺える。
「さて、だとしていつ頃お暇しようかね」
俺がそう切り出したとき、部屋の扉がノックされた。