翌朝、朝の水汲みはいつも通りこなした。作業で使うのではなく、食事と身支度の分だ。
今日はどこにも出かける予定はないし、ここへ誰かが来ることもほとんどないが、ジゼルさんたちは勿論、それ以外の客が来ないとも限らない(予定はカミロに伝えてあるので、まずないはずだが)し、そういうことがなくても身ぎれいにしておきたいと思うことに不思議はない。
湖でその分も含めていつも通りの量を汲み、娘たちも綺麗にしてやった。
また明日も汲んでくることになるが、それは道行きの間のものになる。
さすがにハヤテとマリベルは勘定に入れられないので、俺とクルルとルーシーの3人が汲める量には限度があるし、それは3週間まるまる賄える量ではないが、心配はしていない。
「サーミャが言うには、水が湧いてるところはあちこちあるらしいから、お前達も綺麗にしてやれそうだな」
「クルルル」
「ワンワン」
帰り道、娘達に言うとクルルとルーシーが反応した。ハヤテとマリベルはクルルの背中でのんびりしている。
マリベルは水浴びをあまりしない。そもそも精霊なので物理的な汚れと縁遠いのが主な理由だが、全然しないのかと聞いてみると、
「んー、しないこともない!」
と元気に答える。
「水に浸かるのは?」
「へいき!」
水に浸かったからといって弱ったりとかそういうことはないらしい。気が向けば女性陣と一緒に水を浴びたりするのだろう。確か温泉には一緒に入っていたはずだし。
こうして、やることはいつも通りの、少しだけ違ういつもの朝の光景は過ぎていく。
朝食を終えて、いよいよ準備に取りかかる。ある意味で専門家のヘレンもいるし、丸一日かける必要はなさそうだが、中途半端に仕事をするよりは、ゆっくりじっくり準備した方がミスも少なくなるだろうということで家族全員の意見が一致した。
「前に急いで準備して、色々足りなかったことがあったな」
ヘレンが言った。俺は天を仰いで思い出す。
「
ヘレンが頷いた。確か、あのときはもう少し行動食や水、それに簡単な補修が出来るように準備すべきだったと反省したのだったか。
たとえ無駄になったとしても、必要になったときに足りないよりはずっとずっとマシだからな。
邪鬼退治のときは思ったよりも早くにカタがついたからなんとかなったが、アレがもっと苦戦するようだと色々と厳しいことになっていた。
「今回は戦いは無しの予定だったな」
「うん。サーミャとリディ、あとヘレン、お前に探って貰って避けていく予定になってる。今回はあくまでどこを通ればどこに出るかを確認しに行くだけだからな」
俺がチラリとサーミャたちのほうを見ると頷いた。俺の認識は間違っていないようだ。
「でも、避けられないこともある」
「だなぁ……」
こちらが避けるつもりでも、動物や魔物のほうから向かってくることもあるだろうし、ドラゴン(いればだが)に出くわしでもしたら戦闘は避けられなさそうだ。
「その時に即座に逃げられればいいが、そうでないこともあるから、戦いになることを考えて準備をしよう」
ヘレンが今度は皆を見渡しながら言って、俺たちは少しばかり気を引き締めて頷くのだった。