「そういえば、普段の狩りはみんな弓だったか」
「うん」
しゃがみこんで武器を見ていた俺が、振り返りつつ見上げながら言うと、ヘレンは腕を組んだまま頷いた。
狩りのとき、ヘレンとディアナが護身用の武器として剣を持っていくが、基本的には全員弓を使って獲物を仕留める。
「その時は射線の確保はどうしてるんだ? 木が多くて邪魔だろ」
今は家……と言うか鍛冶場の中なので見えないが、うちから少し離れると鬱蒼とした森である。そこには当然ながら木々が文字通り林立(森だけど)している。
とはいっても全く塞がれているわけではなく、それなりの距離を見通せはする。
しかし、矢が通りにくい環境であることには変わりなく、弓を運用する上では非常に大きな問題だろう。
「ん~」
ヘレンは組んでいる腕をほどいて、おとがいに手を当てる。
「狩りのときはサーミャが指示を出して、開けてるところにうまく誘導するからなぁ」
「開けているところの周縁から射つ?」
「そう」
ヘレンは再び頷いた。なるほど、狩りは勢子が獲物を追い立ててくるから、射線が通る通らないはあまり関係ないのか。射線が通る場所に誘導すればいいのだものな。
俺も腕を組んで首を捻る。
「今回はそういうわけにいかない……いや、そうでもないのか」
追いかけてくるなら、そういう場所に誘導しながら逃げれば良いだけだし。
「よし、弓を持っていこう」
「ほう、その心は?」
ヘレンが片眉をあげて聞いてきた。俺は少々考えこみながら回答する。
「今回の主目的が探索なのは間違いない。その時になにか採取したらそれを積んで帰りたいのもそりゃあそうなんだが……」
俺はそこで一旦息をつく。
「食料を現地調達することを考えたら、ある程度は威力のあるものを持っていかないとマズいことになりそうだなと思ったんだよ」
ヘレンは何も言わず、小さく頷いている。
「単に森の獣を追い返すなら威力が強すぎるかも知れないが……」
俺が言うと、ヘレンは先を促すように再び片眉をあげた。
「そんときゃ直接石を投げればいいかなって」
「だな」
手による投石、と聞くと子供のお遊びのようなイメージが浮かんでしまうが、実際にはかなり正確に目標に当てられるし、威力も普通に人死にが出るレベルなのだ。
流石に手による投石のみで、この〝黒の森〟の獣を仕留めることは難しそうだが、襲われたときに全員で石を投げれば、それ以上近づこうとは思わない程度のダメージを与えられるだろう。
そして、それで充分なのだ。
うちの家族は大体力が強い。ディアナとリディはさほどでもないが。ヘレンも純粋な筋力はそこまででもないが、投石となれば身のこなしで石に十分な初速を与えるだろう。
なので、どちらかと言えば、「追っ払うときはうっかり仕留めてしまわないよう」気をつける必要がある。
「今はその判断が出来りゃ問題ない」
「合格点か」
「それはどうかな」
言って笑うヘレン。俺もつられて笑い、これでどの武器を積んでいくかは決定したのだった。