「つまりだ、アンネの両手剣を打ち直して斧に仕立てる」
動くツタから離れ、あまりそれらが見えないところへ移動してから、俺は皆に説明した。
なるべく目を離したくないのだが、それでも移動したのは視界に入ると気が散って説明や作業に支障がでそうだからな……。
ちょこちょこラティファさんが様子を見に行ってくれていて、急を要する事態となれば俺とヘレンで対処する。
「アンネの両手剣なら、いけるんじゃないのか?」
「それなりにデカくは作ってるけど、剣だからなぁ……」
ヘレンに言われて、俺は思わずアンネの剣を見ながら言った。
長くて幅も広め、厚さもそれなりにはあるが、刃を維持できるくらいの厚みしかない。
それはもちろん、斬る武器としての剣を考えたときに切れにくくなってしまうからだ。出刃包丁で刺身を切ろうとは思わないのと同じである。やって出来なくはないだろうが、適してはいない。
逆に薄い包丁で鯛の骨を切ろうとすれば刃が欠けてしまう。
樹木は鋼の鎧兜よりは柔らかくても分厚さが段違いで、当然のことながら人体よりは硬い。
なので、今回は薄い剣を分厚く加工し、樹木を切るのに適した厚みの刃に変える作業を行う。
鋳溶かすところまでは必要ないので、最低限加工できる温度まで上げられる火床を用意すれば良さそうだ。……持ってきた炭を全部使ってしまうだろうが。
火床は簡易なものを用意するしかないので、地面に穴を掘ってその中に炭を入れて代理火床にすることにした。
火床の底付近には穴をあけて、風が通るようにし、穴の逆側は地面に開いているようにする。そこに袋と送風の魔法(リディが担当)でフイゴのように風を送って温度を上げられる算段だ。
とりあえず、火床を作るのはみんなに任せて、俺は炭の袋からバラッと炭を取り出す。
俺は今からナイフで炭の大きさを揃えていくのだ。そうすることによって、均一に火が回るし、風も通るので温度を上げやすくなる。
この作業は地味だが技術が必要な部分で、リケも出来るが、より早く正確に出来る俺がやったほうがいいので、そうなった。
「よく切れる」ナイフで炭を割っていく。これは鍛冶に必要な工程だからだろう、チートが働いてくれて、ナイフの切れ味にも助けられ、特に力を入れずとも炭がドンドンと同じ大きさに揃っていく。
炭の大きさは小さすぎてもダメだし、大きくてもダメなのだが、ちょうど良い塩梅をチートが教えてくれるので、それに従って揃えていく。
これもいずれ自分の感覚で出来るようになりたいところだが、今は速度優先だ。チート頼りでもいいから進めていこう。
「エイゾウ、これでいい?」
ディアナに声をかけられて、俺は顔をそちらに向けた。浅めの風呂桶といった風情の穴がそこにあった。
その穴の底辺りには横穴が複数あいていて、近くの地表に一つ大きめの穴があった。
そんなに時間がかかってないにもかかわらず、立派なものができている。
うちの土木技術も随分と上達してきたなぁ。逃げた先で家を建てて、インフラを整えて暮らしていけるんではなかろうか。
「おお、凄いな。十分過ぎるよ。みんなありがとう」
俺がそう言うと、家族の皆は嬉しそうに笑う。
さて、俺はもう一仕事(リケとリディの手助けは必要だが)頑張っていくか。