俺とリディが簡易火床に風を送り、温度を上げているところへ、石捜索隊、帰還第一陣のヘレンとアンネが石を持ってきた。
その様子を見て、俺は思わず呟く。
「石、デカくない?」
実際にはそんな音がしていないにもかかわらず、2人がズシンズシンと地響きを立ててやってきているように感じる。
俺は前の世界の漫画で、円形の石のリングが壊れたからと新しいのを「持って」くる場面を思い出した。
「大きい、ですね」
わりと何が起きてものんびりしているリディが目を見開いて驚いている。一抱え、と言っていいような大きさだから、当たり前だが。
「いくぞ、せーの!」
「よっ!」
ヘレンが声をかけて、アンネが合わせ、石を地面に下ろした。いや、下ろすというよりは放り投げると言った方が適切な気がする。
今度は確かにズンという音が、大きくはないにせよ響いた。心なし揺れたような気もするが、そちらはさすがに気のせいだと思いたい。
「良い感じでしょ」
そう言ったアンネが、額に浮かんだ汗も拭わずに胸を張る。俺はなんとか送風を維持しながら頷いた。
確かに見たところ、四角くて厚めだ。当然のことながら凹凸はあるが、これは「ビシャン」がなくとも、鎚で叩いて調整できるだろう。
鍛冶のチートが働いてくれれば理想だが、最悪でも生産のほうが有効になってくれるはずだ。
頷いた俺を見て満足げなアンネの後ろから、ヘレンがグイッと額の汗を拭って近づいてくる。
「よーっし、もっかい行くぞ!」
「はーい」
俺は目を見開いた。もう十分デカい石を運んできたのに、もう一度行くだって?
「おいおい、これで十分だぞ」
踵を返して、再び石を探しに行こうとする2人に俺は言った。今持ってきてくれた1つだけでもかなり作業はできそうだ。
複数あったほうがいいのは確かだが、他のみんなも持ってきてくれるわけだし、2人が頑張ってもう1つを持ってこなくても事足りそうなのも、また確かなのだ。
しかし、俺のやんわりした制止に、2人は振り返って言った。
「ちょっとでも多い方が良いだろ?」
「エイゾウはここで期待して待ってればいいのよ」
そしてフッと笑うと、足早に森の中へ消えていった。
「好かれてますね」
風の音に負けないリディの声が聞こえてきた。
「どうだろうなぁ」
純粋に好かれるようなことをした実感はあまりない。
いや、ヘレンについては帝国まで助けに行ったし、帰り道に夫婦のまねごともしたが、それでどうとかいう話ではない。……ないよな?
「ただまぁ、ヘレンとアンネもいて、今の家族なんだなとは思ってるよ。」
俺はそう、今の自分の気持ちを正直に答える。
「もちろん、リディも」
「あら、ありがとうございます」
「正直に言ったまでだ」
リディのからかうような返事に、俺はわざとらしく口を尖らせる。リディがクスリと小さく笑った。
俺の目が、炭の温度が十分に上がってきていることを捉えた。そろそろ作業をはじめられそうだ。
「リディ、すまないがここを頼んだ」
「わかりました」
リディは小さく微笑むと、送風口に意識を向ける。俺はそれを邪魔しないよう、そっとその場を離れて、ヘレンとアンネが持ってきてくれた石の方へと向かうのだった。