簡易火床で熱された鋼の塊はまた赤く身を染めていく。塊になって来た元両手剣は、剣であった頃とは違い、外部と内部の温度差が大きく、当然、外側の温度だけ上がっても思った通りの加工はできない。
今の資材が限りある状況の場合、加熱は必要な最低限度だけにしたい。
普通ならその見極めはとても困難な話だが、幸いにしてチートの手助けがある俺にはたやすいとまではいかなくとも、かなりの精度で見極めることが可能である……少なくともそのはずだ。
剣や板金であればとっくに加工できるだけの時間が過ぎているが、チートの感覚はゴーサインを出さない。
真冬であれば少しありがたいまであるかも知れない高温だが、もう冬も過ぎて春になるこの時期ではかなり厳しいものがある。夏には遠いにもかかわらず、俺の額からは汗がしたたり落ちる。
「リディもすまないな」
俺は額の汗を手で拭って言った。送風口は簡易火床から少し離してあるがほど近い場所で意識を集中させているリディも、かなり暑い中それをこなしているはずだ。
リディは首を横に振った。
「いえ、エイゾウさんのほうが大変でしょうし、それに……」
「それに?」
「森を守るためですからね。エルフとしても見過ごせません」
そう言って、リディは笑う。普段はあまりエルフであることをアピールしない彼女が口に出したということは、わざとそうしたんだろうなぁ。
つまりは「あまり気に病まないように」ってことだと思う。それを確認してしまうのは野暮もいいところだし、すまないを重ねるのもよろしくなさそうなので、
「ありがとうな」
「いいえ」
短く感謝の言葉を述べることにした。
額の汗を拭いつつ待っていると、「その時」はやってきた。ヘレンとアンネが持ってきてくれた石。それを使って加工する残り3回のうち1回で形が少し見えてくるところまでは持っていきたい。
魔力をこめるのは形ができてからでも遅くないから、ここはスピード勝負だ。
チートによって与えられた感覚が「今取り出せ」と教えてくれる。
「よし、いいぞ!」
「はい!」
かけ声でリディが〝送風〟を止めた。赤熱を少し通り越した元両手剣を簡易火床から素早く取り出し、金床代わりの石の上に置いたら、素早く叩く。
チートによる手助けで、どこをどれくらいの力で叩けばいいかが分かる。
俺が無心でその通りに鎚を振るうと、赤熱した塊はその形をややダイナミックに変えていく。
ほんの僅かも迷っている暇はない。できる限りの速度で、俺は鎚を振るっていく。
このとき完全に集中していて、当の俺には全く覚えがないのだが、後にラティファさん曰く、
「凄い音がメチャクチャ連続して聞こえて何事かと思いましたぁ……」
だそうである。そんなに凄い音だったのかをリディに確認すると、
「集中を切らしてしまうのはどう考えてもまずいと思いましたので。それに割と〝いつも〟の話ですし……」
とのことだったので、リディも変な毒されかたをしてしまっているように思う。
さておき、そんなことを思われているとはつゆ知らずの俺は一心不乱に鎚を振り続け、元両手剣は鋼の塊から、その姿を斧に近いものへと変えていく。
さて、いよいよこいつを生まれ変わらせるときがやってきたようだ。