「すみませんね、勝手にあれこれ」
慣れない作業場ではあるが、テキパキと準備を進める皆。それをどこか放心した様子で見ていたペトラさんに俺は言った。
「ああ、いえ、それは全然大丈夫なんですけど……」
動き回る皆を見回すペトラさん。
「皆さんがここまで慣れてらっしゃるとは思わなくて」
「なんだかんだ皆で日常的にやってますからねえ」
ドワーフのリケはともかく、獣人のサーミャにエルフのリディ、そして巨人族のアンネまでとなると珍しいかもしれない。
ペトラさんは知らないかもだが、アンネは皇女でもあるし。まさか皇女様がこんなところで鍛冶屋の手伝いしてるとは誰も思わないだろうな……。
「あ、私もお手伝いしますよ! 元々それで来てますし!」
「じゃあ、俺も準備しようかな」
ペトラさんがリケのところへ駆けていくのを見て、俺も同じく準備を手伝おうとしたのだが、
「いえ、親方はこの後に作業があるんですから」
リケにそうピシャリと言われてしまった。
俺は「はぁい」と力なく答えて、火床に火が回っていく様を眺めた。
「まず最初に板金を延ばしてみるか」
鎖帷子を作るには、まずワイヤを作る必要がある。そのワイヤを棒に巻き付けてコイルを作り、コイルを一周ごとに切り離してリングにし、それらを繋げて鎖状に編んでいき、シャツのような形にする、というのがざっくりした作り方になる。
リングにするときも、リベットのようなもので留めて耐久力を上げたりすることもある。
もちろん、それらをキッチリやっていくと、チートをフルに活用しつつ3徹を敢行したとしても、確実に時間が足りない。
そこはある程度簡素化していくことで、時短を図るしかないだろう。
実際に襲撃を防いでくれるのは、〝災厄除け〟の指輪で、アリバイ作りみたいなもんだし、鎖帷子は形ができていることを最優先にする。
とにもかくにも、まずはワイヤだ。本来ならこれはこれでちゃんとした作り方があるのだが、今回はチートに頑張って貰って、板金をうまいこと叩いて延ばし、細くしてつくることにしよう。
リケが持ってきてくれた板金をヤットコで掴んでゴウゴウと火を上げる火床に入れる。
ここからの火加減は俺が自分でフイゴを動かして調整していく。といっても、基本的には火力が最大になるようにすべく頑張って動かすだけだ。
火の音が増し、仄青さすら見えそうになるくらいの温度の中、俺が見つめる先の板金はその赤さを増していく。
そして、早いタイミングでちょうど良い頃合いになったことを俺は把握した。
「よし、頼んだ」
ヤットコで赤くなった板金を、金床に乗せる。沢山用意されていた大槌を、サーミャとアンネが振り下ろす。
ガキンと派手な音が響き、鋼がその姿を変えていく。
これからできるであろうもの、その最初の一歩を俺たちはやっと踏み出したのだった。