「こちらです!」
ペトラさんに案内されて向かった作業場は、カミロの店からそんなに離れていなかった。
このあたりは街に元々ある外壁の外、つまり「壁外」のうちでもいわば「下町」にあたる地域だ。
食べ物屋があったかと思えば、小間物屋と普通の住居が並んで立っていたりする。建てていい建物の種類に制限もなければ、建てた後での用途変更についても特に規定はない。
普通なら火を扱って万が一には火災の原因となり、常に騒音が響く鍛冶場はかなり忌避される。
都にあるエイムール家の鍛冶場(彼の家は武名で鳴らした家だからか、自前で装備を揃えることを許可されている)は下町の町外れだし。
「壁内」はもう少し建てて良いものが区域によって決められているらしいが、ここらは相当に自由なようだ。
カミロの鍛冶場は隣が住居なのだが、人の気配がしないところを見ると、昼の間は在宅していないぽいな。
他には何らかの工房があるらしく、そちらから木製のものを加工しているらしい作業音が聞こえてくるので、無秩序といえども自然と似たようなものは固まる傾向にあるのかもしれない。
「立派な構えだなあ」
「うちの工房は森の中ですからねえ」
工房は耐火も兼ねているのかレンガと石を組み合わせたしっかりしたものだ。壁で屋根の重量を支えているのか、それとも中の熱や火災の時に炎が出ていかないようにか、窓はあまり大きくない。
しかし、見た目にも工房らしさのようなものが溢れていて、主に木製の我が工房とは違っている。
まあ、うちはうちで〝黒の森〟の風景に馴染んでいると思っているのだが。
「まずは中を確認しなきゃね」
アンネにそう促され、ペトラさんも頷いたので、俺は扉(さすがにこれは木製だった)を開いた。
鍛冶場の中は整然と道具が並んでいる。レンガ造りの火床は俺の腰の高さくらいに底面があり、周囲もレンガで覆われている。
真上にはそのまま煙突が伸びていて、見た目にはやたらゴツいピザ窯のようだ。
火床の側面には、ふいごが備え付けられているが、当然ながら魔力で風を送り込めるようにはなっていない。
あくまで手動で送り込む方式のようだ。
「これ、風は無理だよな?」
「う~ん。厳しそうですね」
リディに聞くと、彼女は周囲に目を凝らすようにしてから言った。
多分、魔力の具合を見てくれたんだろうな。魔法について最低限しか使えない俺と違って、リディは魔法が得意だ。その彼女が難しいなら無理っぽいな。
「じゃ、全部自分でやるしかないな」
「はい!」
目をキラキラさせるリケ。彼女にとって、こういうちょっとしたビハインドはワクワクするものなのかも知れない。
いや、リケだけにそれを押しつけるのは少し違うな。俺もこのちょっとした体験にはワクワクを抑えきれない。
たとえ、チートの手助けがあったとしても、そこから学び取れることはあるだろうし。
「エイゾウ、これはこっちに移せば良いのか?」
さらにもう1人、ワクワクを抑えきれなかったらしいサーミャが早速木炭を積み上げているところから、ショベルのような道具で火床へとそれを移そうとしている。
「ああ」
よし、それじゃあ頑張りますかね。俺はそう思って、肩をぐるりと一周回すのだった。