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作業場へ

「そうそう、ペトラさん」

「は、はい!」


 やはり、なぜかやたらと緊張しているらしいペトラさん。聞けそうなら、あとで理由を聞いてみようかな。

 ああ、それよりも聞くべきことがあった。


「クルルとルーシー、ハヤテは連れて行きますか?」


 俺と同じく気になっていたんだろう、なんとなく後ろでディアナとヘレンが力強く頷く気配がした。

 マリベルもいるのだが、あの子は今姿を消しているので、名前を出さずにおく。


「いえ、お子様がたはこちらでお預かりいたします。向こうはあまり広くありませんので。向こうとこちらを移動することに制限はありませんから、好きなときに会いに来ていただいても問題ないですよ」


 流れるように説明してくれたのはペトラさんではなく、一番後ろにいた番頭さんだった。見送りのためか、ついてきてくれていたのだ。


 この街は〝黒の森〟を避けて行き来するなら必ず通るところにあるので、そのぶん栄えているのだが、それでもクルルとルーシーを寝泊まりさせることができた上で、運動もさせられるような場所となると限られる。

 その限られた場所のうちで一番馴染みが深いのは、当然ながらこの店なので、ここで預かってもらうのがベストなのは確かだ。


 娘達はここで預かるという話を聞いて、ヘレンとディアナが言った。


「じゃあ、アタイは残るよ」

「それじゃあ、私も。鍛冶じゃあまり役に立てないし……」

「2人が残ってくれるなら安心だな」


〝迅雷〟と、彼女に鍛えられてさらに腕を上げた〝剣技場の薔薇〟が護衛につくのである。力押しで勝つのは厳しいだろうな。

 実に頼もしい「ママ」達である。


「うーん、アタシは行こうかな」

「私は行くわよ。力仕事もあるでしょうし」

「私も行きます」

「私はもちろん親方についていきますよ!」


 サーミャ、アンネ、リディ、そしてリケは作業場までついてきてくれるらしい。1人だけでは手が回らないこともあるだろうし。彼女達も実に頼もしい限りだ。

 その頼もしさに俺は感謝を述べる。


「みんな、ありがとうな」


 頼もしいみんなは、それにはにかむように微笑んだ。


「なるほど」


 それを見てか、そう呟いたのはペトラさんだった。俺たちは思わずペトラさんに視線を集中してしまう。


「あ、すみません……」


 ペトラさんはそう言って身を縮こまらせた。


「都で一緒に働いている人から話を聞いてまして、その話の通りだなと」

「へえ」


 ペトラさんは都にいたと言うし、エイムール家の誰かと知り合いだったりするのだろうか。


「カレンさんって言うんですけどね」

「ああ……」


 都で俺たちのことを知っていて鍛冶仕事をしている、という条件に一番当てはまるのはカレンさんだ、というのを失念していた。

 どういう話をカレンさんからされているのか、今は深掘りしない方が身のためだろうな。


「皆さんとお仕事できるの、ちょっと楽しみです」


 クスリとペトラさんは笑った。さっきまでガチガチだった彼女だが、緊張はかなり和らいだようだ。

 特にそれを狙ったわけではなかったが、緊張しどおしはよろしくないから、ちょうど良かったのかもしれない。


「そうですね。私もです」


 そう思い、俺もぎこちなさが少し残る笑顔をペトラさんに返すのだった。

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