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街でのただいま

 忙しなさをくぐり抜けて、俺たちはほどなくカミロの店についた。

 裏庭になっているところでは、さんざん遊んだのだろう、ディアナとヘレン、クルルにルーシー、それに丁稚さんが息を整えていた。

 ハヤテは適度なところで切り上げたのか、庭に植わっている木の枝から、涼やかな目を皆に向けていた。

 マリベルはまだ姿を隠しているらしく、見当たらない。この場で見ているとは思うのだが。


「ただいま」

「おかえり」


 息が整ってきたディアナに声をかける。額には汗が浮かんでいる。


「ずっと遊んでたのか?」

「え? ええ、さっきまでね」


 チラッとヘレンを見ると、彼女は頷いた。


「うん、ずっとクルルもルーシーも遊んでたぞ。そこの小僧っこは休み休みで、ハヤテは気がついたら木で休んでた」

「そうか……。いや、別に問題があるわけじゃないから、気にするな」


 心配そうな顔をしたディアナに俺が慌てて手を振ると、ディアナはほっとした表情になった。

 さっき、何でもないことのようにディアナは言ったが、俺たちが鍛冶場に移動してから結構な時間が経過している。

 つまりはそれだけの時間動き続けられていたわけだ。


 稼業から離れていても、このあたりで最強と言って良い傭兵のヘレンならともかく、伯爵家令嬢だったディアナにそれだけの体力がついていることに驚いただけである。

 まあ、〝黒の森〟で獣人に付き合って狩りに赴き、ほぼ毎日、最強の傭兵の手ほどきで剣の稽古を受けている。

 狩りに行かない時も鍛冶場で何かと作業をしているし、体力がつかないはずもないな。


 俺は自分で自分を納得させる。伯爵令嬢をここまで「頑丈」にしてしまって良かったのだろうかと思わなくもないが、エイムール家であれば大丈夫そうだと言い聞かせる。

 剣の稽古をしていないリディも、狩りにはついていったりしているし、恐らくディアナに負けず劣らずくらいにはなっていそうだが、あまり考えないでおこう。

 森で暮らすエルフに体力があって困ることはないだろうしな……。


「そっちはどうだった?」

「ん? ああ……」


 ディアナに聞かれた俺は、少し眉根を寄せた。


「まだ材料ができたあたりで、作るのは明日からになりそうだ」

「間に合うの?」

「おいおい、俺を誰だと思ってるんだ。――いや、ただの鍛冶屋のオッさんではあったな」

「なあにそれ」


 ディアナがクスリと笑い、つられるように家族みんなも笑う。


 いかにチートといえども限界はあるが、それでもできるだけやるしかないな。〝黒の森〟の鍛冶屋として。


「よし、それじゃ飯にしてもらおうか。カミロは何を用意してるかな」


 そう言って、俺はカミロの家の飯に思いを馳せ、家族からは再びの笑い声が響くのだった。

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