さて、台座に据え付けるクロスボウは威力型と連射型の両方を作るとして、どちらから作り始めようかな。
どちらも売り物にする気は今のところないし、好きなほうでいいのはいいのだが……。
「機構が少ない方からにするか」
俺はそうひとりごちて、場所を移動する。そこには端材を含めて板になった〝黒の森〟の木材が並んでいた。
この森の木々は水だけでなく魔力も吸収して生長しており、乾燥も早いし他の地域のものよりも頑丈なのだ。まれに魔力に当てられた木が魔物化することがある、というデメリットが存在するが。
作るのに機構が少ないのは威力型の方……だと思うので、この板材で試しにその部分だけ作ってみるのだ。
歯車を大きいのと小さいのをそれぞれ1つずつ。大きい方の歯車の歯に噛み合うように、直線の歯を持った部品もつくり、そこに弦を引っ張るための出っ張りを作っておく。
小さい歯車を回すための取っ手なども必要だが、クロスボウ本体以外の部品としてはこれくらいなもののはずである。
小さい歯車を回すことで大きな歯車を回し、大きな歯車は直線状の部品を動かして、その部品がクロスボウの弦を引っ張る。
理屈の上では小さい歯車に対して、大きな歯車が大きいほど、小さい歯車にかけた以上の力で弦が引けるはずだ。
ただし、大きな歯車が大きければ大きいほど、同じだけ小さな歯車を回しても大きいほうの回転数は低くなる。つまり、弦を引ききるまでの時間が長くなるし、耐久性を考えれば歯車の歯の数は「互いに素」にして、同じ歯同士がいつも噛み合うようなことにならないようにしてあげた方が良い。
このあたり、きちんと設計すればチートに手助けされるまでもないのだが、ここはチートに頼ることにした。
スイスイと、俺は設計図を知っているかのように愛用のナイフを動かしていく。歯車は例えば30°くらいごとに、切ったケーキのような形にして組み合わせるのが良いのだろうが、今回は試作品なので一枚板から切り出すことにする。
量産のあかつきには歯車部分は鋼で作るだろうし。〝インストール〟の知識によれば、おいそれと手に入るものではないにせよ、金属製の歯車はこの世界にも既に存在するらしいので、前の世界の「アンティキティラ島の機械」のような扱いにはならないはずだ。
部品は程なく出来上がった。試しに適当な木の板に置いて回してみると、スムーズに回ってくれたので、俺は一度弦を引っ張らせることにした。
リケの作業の合間を縫って(俺の作業を優先していいと言われたが断った)、細長い鉄の板と、細い鉄のワイヤーを用意する。これらは鍛冶のチートが働いてくれるのですぐに出来上がった。
鉄の板にタガネで切込みを入れて、ワイヤーを固定できるようにしてから、鉄の板を曲げる。そこから焼入れと焼戻しをし、ワイヤーを張って弓のようなものを作った。
これはそのままでは弓として使えるようなものではない。サーミャやヘレン、アンネの力にかかれば多少引ける可能性もあるが、そこはまぁ置いといて。
歯車などの部品と鋼でできた弓状の部品を、適当な木の板に据え付けると、見ようによってはクロスボウのように見えなくもない代物が出来上がる。
俺は小さい歯車に取っ手をつけて、ぐるぐると回しはじめた。