起きて窓の外を見ると、空が白んできている。だが、空気に冷たいものはまったくない。
「うーん、すっかり春だ」
日も昇っていないのに、ぽかぽかと陽気すら感じる気がする。このまま二度寝をすれば、さぞ気持ちいいだろうなぁ。「春眠暁を覚えず」というやつだ。
だが、今日も朝からやることはある。ベッドから体を引きずり出し、外に出る準備を済ませて、家を出た。
「クルルル」
「ワフッ」
外に出ると、娘たちが待っている。彼女たちには二度寝という概念はないらしい。
「キュッ」
「おはよー」
「おう、みんなおはよう」
それぞれの頭を撫でてやり、クルルには水瓶を2つ、ルーシーには少し小さいのを1つ渡してやる。ルーシーが持つ水瓶も少しずつ大きくなってきた。
今はまだ俺やクルルが持つほど大きいものではないが、そのうち持てるほど大きくなるのかなあ。
「今日は先に温泉のほうに寄っていくぞ」
俺がそう言うと、娘たちは理解してくれたらしく、同意らしき声をあげた。
温泉の付近に到着して、〝竜の息吹〟とカリオピウムが納まっている物置を見る。
俺はマリベルに聞いた。
「どうだ? 燃えたりしそうか?」
「いや、だいじょぶじゃない?」
「だよな。じゃあ良いか」
炎の精霊のお墨付きをいただいた。一晩越して大丈夫なら問題ないだろう。壺の周囲や、付近で小動物がぐったりしているということもない。
火が出ないと言ってもなかなかの高温ではあるし、それで避けてくれているならそれでいい。
「よーし、それじゃあ行くぞー」
再び了解の声を上げる娘たち。日が昇ってきた中を、俺と娘たちは水を汲むべく、湖へ向かった。
「さてさて、どうなってるかな」
水汲みから朝食、諸々の準備を済ませ、カリオピウムを〝竜の息吹〟に漬けておいたものを鍛冶場に持ってきた。
なかなかの高温なので、鍛冶場のヤットコが必要だったが。
壺の蓋をそっと外す。万が一を考えて、まだ火を入れていない火床に置いているので、炎が吹き出ても大丈夫だ。
とりあえず炎が噴き出すようなことはなく、蓋が外れる。火床の炭を動かすときに使う火かき棒を壺の中に突っ込むと、少し硬い手応えがあった。
カリオピウムが溶けていたらどうすればいいだろうかと思っていたが、その心配はなさそうだ。
作業台のほうに壺を移し、〝竜の息吹〟が溢れないよう、そっと中身を取り出す。
そこから出てきたカリオピウムは、色こそさほど変わっていないが、その輝きをかなり減じている。
見た感じとしては前の世界でつや消しのクリア塗料を吹いたような……。
そして、俺の目から見て魔力もかなり減っているように見える。
魔力については俺よりも詳しい先生がいるので、聞いてみることにしよう。
「リディ、どう見える? 俺にはだいぶ魔力が減っているように見えるんだが」
「そうですね……」
リディが顔を寄せてジッとカリオピウムを見つめる。少しして、俺のほうを見て言った。
「確かに、かなり減ってますね」
「よし、それじゃあこいつは俺がなんとかしないとな」
俺がそう言って腕まくりをすると、鍛冶場の中に笑い声が満ちた。
さて、ここからが本番だ。