外に出るとぽかぽかと良い陽気で、柔らかな春の日差しが庭を照らしていた。
マリベル以外の娘たちもさっき少し遊んだので気が済んだようで、庭の片隅でごろりと横になって日向ぼっこをしている。
日に当たるのは身体に良い効果と、そうでない効果の両方がある……前の世界では、だが。
この世界では太陽の神様が祝福する気持ちが降り注いでいるらしいので、きっと身体に良いほうの話はあるんだろうな。
さておき、そんな日光にインク(厳密にはインクで文字を書いた羊皮紙)を晒してみる。と言っても1時間か2時間か、庭の隅に風で飛ばないように置いておくだけなのだが。
体感で10分くらいおきに文書の様子を確認する。思ったより、こまめに確認をする必要があるので、娘たちとは遊んでやれないのが残念だ。
今のところ、娘たちも日向ぼっこしつつ、お昼寝を楽しんでいるようなので、俺ものんびりと過ごさせて貰うことにするか……。
他の作業をするにも微妙な間隔だしな。
娘たちと日向ぼっこをしつつ、確認したが、1時間ほどでは何の変化もなかった。少なくともすぐに変化し、消えるということではなかったようだ。
重要機密を書くためのインクなので、消えるのが早い可能性もあったが、そうではなかったらしい。
よくよく考えてみれば、日光に晒してすぐに消えるのなら、晴天時には読めないことになる。
外で読んで破棄したい場合もあるだろうことを考えれば、日光というのは少し難しかったか。
そこからもう30分ほど粘ってみたが、生産のチートを併用しても変化が分からなかった。
日光で消えることがあるなら、この程度でもほんの僅か変化がありそうなものだが、全くないので、これは日光の線は消えたことになる。
「うーん、分からん!」
俺は羊皮紙を手に、庭で仰向けになった。そこには青い空が広がっている。うちで今すぐ試せそうなものは試した。
あとは酸とアルカリだろうか。一応どちらもあるにはある。アルカリのほうは灰から作れるのだが、酸性のほうは酢や酸味の強い果物が家にないから難しいかも知れない。
取りあえずアルカリ溶液は試してみる価値がありそうだな。
すやすやと眠る娘たちを刺激しないように、そっと俺は鍛冶場に戻った。
結局、アルカリ溶液でも消えることはなかった。アルカリ溶液がついた状態で火で炙るということもやってみたのだが、それでもインクに変化はなかったので、正攻法の化学変化では無理である、という結論になってしまいそうだ。
「後は明日に回すか……」
今日のところは、今日試した方法のどれでもないことが分かったのを収穫とするしかないな。
外を見ればもうすっかり日も落ちてきている。晩飯の準備もせねば。
俺は片付けを始めた家族を横目に、羊皮紙を置いて台所へ向かうのだった。