「他にはあるか?」
「いや、俺からはないな……」
カミロに尋ねられて、俺は首を横に振った。
「皆はなにか欲しいものは?」
皆の方を見ながら言ったが、皆も同様に首を横に振った。
カミロは新製品完成までは今のままで良いと言ってくれているし、ミスリルも手配はしてくれるらしい。
それでこれ以上何かを要求したら罰が当たると言うものか。
「よし、それじゃあ今日のところはこれで」
「ああ。またな」
俺とカミロは握手を交わし、俺たちは商談室を後にした。
「今日もすまんな」
「いえ、こう言うのも何ですが、楽しいので」
丁稚さんにチップを渡しつつ言うと、満面の笑みを浮かべる。
準備が整った荷車に乗り込みつつ、俺は言った。
「他の仕事もやってるのか?」
「ええ、少しずつですけど、任せていただいてます」
「そうか。頑張ってな」
「はい!」
頷く丁稚さんに手を振りつつ、俺たちはカミロの店を後にした。
工房に戻ってからしばらくの間、普通の納品物を作って納品しながら、俺たちは改良型ナイフの製品化に向けた課題に取り組んでいた。
葉脈型が効率が良いことは分かっているので、本数や太さを色々変えたものを試している。
「しかし、この葉脈の溝、一つ一つ彫っていくのは時間がかかりすぎるな」
俺は試作品を手に取りながら言った。これまでは実験のために丁寧に彫っていたが、実際に製品として採用するなら、何か簡便にする方法が必要だ。
生産量はあまり落としたくないからな。
「型を使うのはどうでしょう?」
俺とリケ、リディで下書きを入れるなどの方法を検討していると、リケが提案した。
「同じ模様を何度も彫るなら、型があれば効率的です」
「なるほど、それはいいな」
俺は早速、葉脈模様の型の製作に取り掛かった。
とは言っても、薄い鋼板に葉脈模様を彫り込み、それを柄の部分に当てて模様を転写し、そこをなぞれば良い、と言う方法だ。
方式としては下書きに近いが、すぐに模様を写せるので効率がいい。
「こんな感じか」
完成した型を使って俺とリケでそれぞれ試作してみると、確かに今までよりは時間も短縮された。
これなら、多少は生産数が減るだろうが、大きく落とすことなく量産することが可能そうだ。
それは家族に伝えると、皆「おー」と歓声を上げてくれる。
これで葉脈型の生産が少し安定しそうだ。
だがしかし、である。
「後は魔力の集中点のところですね」
リディがそう指摘した。そう、刃の根元に設けた魔力の集中点は、まだ理想的な形状ではないらしく、あまり綺麗に留まるというか集中してくれない。
「ここが難しいんだよな」
俺は刃の根元を見つめた。集中点は小さすぎると効果が薄く、大きすぎると刃の強度に影響する。
「それでも大きさを色々変えて試してみるか。いや、形状が先か?」
俺は腕を組んで考える。一般モデルとしているものは生産スピードを優先して小さくするにしても、高級モデル以上ではそれなりの効果が欲しいところだ。
となると、
「こっちも色々な形状を試すのが先か」
俺は鎚とタガネを手に取って、再び作業に戻るのだった。