「可能ならミスリルと、ミスリル製の剣を手に入れて欲しい」
俺が言うと、カミロは驚いた表情を見せた。
「ミスリルのほうはともかく、ミスリルの剣もなのか?」
「ああ」
「ふむ」
カミロは腕を組んで考え込む。他の希少金属と比べて入手しやすいとはいえ、ミスリルは希少で高価な金属だ。簡単に手に入るものではない。
ましてや、それの加工品となれば尚更だ。人間にせよドワーフにせよ、加工できる者は限られている。
「おいそれと手に入るものでもないし、剣のほうは入手できたらでいいぞ」
俺はそう付け加えた。
「しかし、それなら自分で作ったほうが早いんじゃ?」
「エルフの宝剣から魔力が抜けない理由を調べるときに、『俺やリケが作っていないミスリルの剣』が比較対象として欲しいんだよ。俺たちが作ったら作り手が理由なのか、素材だけが理由なのか分からなくなるからな」
カミロは顎をさすった。
「わかった、当たってみよう。だが時間はかかるし、安くはないぞ」
「構わない。必要なぶんだ」
俺は頷く。よくよく考えてみれば、この世界での「標準」がどういうものかはあまり知らずに過ごしてきたな。
そのうち少しずつでも手に入れるべきか……。
「そういえば、納品はいつもどおりに持ってきたがどうする?」
「ん? いや、普通に引き取るが」
「いいのか?」
現状の製品には一応の問題があることはカミロも知っている。だが、カミロはニヤリと笑った。
「使う上で特に問題はないなら、それでいいんだよ。騙してるわけでもないしな」
「そりゃあ、切れ味のほうは保証するが……」
「よそのものと比べて、大きく切れ味や耐久性が劣っていくようなら問題だが、そういうわけではないんだろ?」
「もちろん」
俺は再び頷いた。そもそも鋼を鍛えて作ったものとしては問題がないレベルのはずだ。
「それなら、例えちょっと切れ味や耐久性が落ちていっても、今売ってる値段から考えれば、ちょっとお買い得になってるはずだ。良いものだからとむやみやたらに高くして売れないんじゃ意味が無いからな」
言ってからカミロはしかつめらしく頷いた。
現状だと付加価値が目減りしていくという問題はあるが、あくまで付加価値の話であって、お客は払った分のものが買えている、ということか。
「じゃあ、新商品が完成するまでは……」
「そのまま作って持ってきてくれれば良い。なに、売るあてはいくらでもあるんだ」
一転してカミロはガハハと笑う。
「すまんな、恩に着るよ」
「気にするな、恩はお前に一番高値で売りつけられそうなときに売ることにするから」
そう言って再び笑うカミロ。俺はその笑顔を見て、少しだけ救われたような、そんな気がした。