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商品説明

 観察を開始して数日。一度カミロの店に納品しに行くことにした。

 今回は納品を断られる可能性もあるが、それはその時だ。1回や2回納品できなくても問題ないくらいの貯えはあるし。


 いつもの通り準備をし、他所の人達には危険だという〝黒の森〟の中をのんびりと俺たちは進んで行く。

 しかし、「ものとして問題ないが、多少瑕疵がある」品物の扱いって結構難しい気はするな。

 そこはカミロの判断に任せるか……。


 街道も問題なく進み、街の入り口の衛兵さんに挨拶をしてカミロの店に到着すると、いつもの通り裏手に回って荷車を停める。クルルが小さく鳴いて頭を下げた。


「よしよし、よく走ったな」


 俺がクルルの頭を撫でてやると、これまたいつもの通り丁稚さんが出てきて迎えてくれた。

 彼に娘たちを頼み、俺たちは勝手知ったるカミロの店の商談室へと上がっていった。


「おっ、待っていたぞ」


 俺たちが商談室に入ると、珍しくカミロが先にいて待っていた。笑顔なので今回の件を腹に据えかねているということはなさそうだ。


「珍しいな。お前の方が先か」

「たまたま早く用件が片付いたからな」


 俺が言うと、カミロは呵々大笑した。手紙にあったが、あまり気にしていないのだろうか?


「さて、例の件を聞こうじゃないか」


 俺たちが席に着くとカミロが切り出した。テーブルには茶が並べられた。


「ああ。魔力が抜ける、と言うことがあってな。特に問題は起きていないようだが……」

「俺のところには何も話は来ていないな。来てるか?」


 カミロはそう言って、側に控えていた番頭さんを見る。番頭さんは首を横に振った。


「いえ、苦情は何も聞いていないですね。黙っているとも思えないですし」

「そうか」


 カミロは大きく頷き、俺はため息をつく。事前に手紙で知っていても、実際に耳にするのとでは違うな。


「それでだな……」


 俺は持ってきていた小さな箱からいくつかのナイフを取り出して並べた。


「これらが試作品だ。葉脈型の溝を彫り込んだもので、魔力の抜け方が少し違うようなんだ」


 カミロは眉を寄せ、ナイフを手に取って調べた。


「見た目は確かに変わっているな。柄の部分に細かい模様があるが…」


 カミロの疑問には、俺よりも先にリディが説明した


「魔力は流れるものなんです。この溝が魔力の通り道になっていて、周囲から少しずつ集めることができると考えています」

「なるほど」


 カミロはナイフを光にかざして見る。リケが続けた。


「まだ観察を始めて間もないので確定的なことは言えませんが、従来のものより魔力の減少がわずかに遅いようです」

「実用化の見通しはどうだ?」


 カミロの質問に俺は顎をさすって答えた。


「今は実験段階だが、製品として出せるようになるのはそう遠くないと思う。葉脈の溝を彫る工程が増えるから、製作時間はほんのちょっと長くなるけどな」

「製作時間が増えるなら価格も上がるんじゃないのか?」


 商人らしい切り口でカミロが言ってきた。俺はそれを頷いて肯定する。


「そうだな。でも上げるつもりはない。上げたとしても銅貨1枚にするかどうかくらいだよ」

「それならいくらでも売れるな。むしろ、新しい商品というふれこみで少し高めにしても問題ないと思うが」


 カミロの目が少しばかり商売熱で輝く。俺は苦笑しつつ返す。


「あまり大げさな宣伝はしたくないんだが……」

「相変わらずだな、お前は」


 カミロが今度は困ったように笑い、そして続けた。


「分かった。でもその代わり、買い替えの時には以前のナイフを下取りするというのはどうだ? 古いナイフも材料として再利用できるだろう」


 流石と言うべきか、カミロの提案に俺は少しばかりテンションが上がった。

 確かに、下取りという体で回収すれば色々助かる。何より、材料を無駄にしないのが良い。


「それはいいな。でも、その分儲けが減ったら……」

「ま、そこは俺の腕だ。お前が気にするこっちゃない」


 ニヤリとカミロが笑い、俺は肩をすくめる。プロがそう言ってるんだから、そこはキッチリ儲けられる手段があるんだろう。


「ともあれ、価格設定については俺に任せてくれ。最初はそれで、反応を見て調整していくことにするよ。もし儲けが増えたら仕入れ値にも反映させる」

「いいのか?」

「もちろん」


 俺は内心安堵した。大丈夫、とは言ってもジワジワと貯蓄が削られていくのは精神的によろしくない部分があるからな……。

 カミロに思い切り甘える形にはなるが、本人がそれでいいと言ってくれているので、お言葉に甘えることにしよう。


「ああ、それともう一つあるんだ」

「お前からそういう話を出すのは珍しいな」


 カミロがまた笑いながら言って、俺は眉根を寄せつつ、ある頼みを言った。



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