ついに改良型の納品日がやってきた。今回も家族揃ってカミロの店に向かう準備を整えた。
「よしよし、今日も頼むぞ」
「クルルル」
俺はクルルの頭を撫でてやった。荷車には通常の製品と共に、改良型の一般モデルと高級モデルが積まれている。数は多くはないが、これが最初の一歩だ。
黒の森を出るまでの道中、皆それぞれの過ごし方をしていた。
サーミャとヘレン、ルーシーとマリベルは警戒のため周囲を見回し、時々木の上にいる鳥を見つけては指差す。
ディアナとアンネは穏やかに会話を楽しんでいて、ハヤテがその脇でくつろいでいる。
リケは御者台で荷車を操り、リディは彼女の近くに座って森の植物について話していた。
「今日は天気が良くていいな」
俺はそう言いながら、空を見上げた。日差しが森の木々の間から漏れ、道を明るく照らしている。
最近は春を過ぎてきたらしく、日射しにもどこか暑さを帯びてきている。
だが、これから来る夏の時期には〝黒の森〟も少しだけその名前に似つかわしくない明るさを得る。
まあ、明るいと言っても森の中なので、それなりの暗さはあるのだが。
森を抜け、街道に出ると景色が一変する。開けた視界にルーシーが嬉しそうに尻尾を振る。
草原の青さは季節が進んでいることを教えてくれている。緑の絨毯のように広がるそこを風が渡っていくのが、草の揺らめきで分かった。
街道では他の旅人とすれ違うこともあった。荷車を引くクルルを見て僅かに驚く者もいるが、いつも通りの光景だ。
一度、商人の一団とすれ違った時は、彼らの荷馬車の馬がクルルを見て少し騒いだが、クルルがおとなしく道を譲って事なきを得た。
街の入り口に到着し、衛兵さんに挨拶をする。
「やあ、どうも」
「ああ、お前たちか」
彼らとはもう顔見知りで、荷物検査もチラリと荷台を一瞥する形式的なものだけだ。俺たちが何かマズいものを運んでいたらどうするのだろうと思わなくはないが、そこはプロだからきっと見分けるポイントがあるんだろうな。
賑やかな街中を通り抜けて、カミロの店に到着する。
いつもの通り裏手に回って荷車を停めると、丁稚さんが出てきて、クルルとルーシーとハヤテの世話を申し出てくれたので、彼に任せることにして俺たちは商談室へと上がっていった。
勝手知ったる店の中、商談室の扉をノックする。いつもなら返事がないので、そのまま入って待たせて貰うのだが、今日は「どうぞ」と返事があったので、少しゆっくりめに扉を開けた。
「待っていたぞ」
部屋の中で既に待っていたカミロが俺たちを迎えた。テーブルには茶が用意されており、すぐに話ができる状態だ。
特に連絡はしていなかったはずだが、どうやら新製品を心待ちにしてくれていたお客1号はカミロのようだ。
「ご期待通り、今回は新製品を持ってきたぞ」
カミロは俺が差し出した改良型ナイフを手に取った。一見するとさほど変わりが無いようには見える。
追加で加工している箇所はほとんど持ち手の革や、鍔の部分に隠れてしまうからだ。
「で、これはどうなったんだ?」
ナイフを矯めつ眇めつしているカミロ。俺は彼に説明を始めた。