西の森は、王都の関所を通って、街道を半日歩いた先にある。
ちょっと大きくなった子がお遣いに行くのにちょうどいい距離だけど、王都の守りからは外れていて、妖精族の領域に限りなく近いんだそうだ。
護衛なしで商人が行き来できるくらいに安全。
なのに、おれは近くの村までしか行かないようにと言い含められている。
ホントは村に行くのだっていい顔はされない。
王宮を出ても『聖女』なのに変わりはなくて、何があるかわからないからだってさ。
まあね、前回……ジューの時は王宮にいて襲われてるんだから、安全な場所なんてないのかもしれないけどさ。
そんな不安なことばっかり言い出したってキリがないから、いいよと言われている範囲内で、好きにさせてもらっている。
村にも森にも、たくさんの結界があって護衛の騎士が潜んでいることを、おれはちゃんと知っている。
おれの生活は密かに見張られていて、あちこちに筒抜けで、表向きには村の人たちに支えられていることになってる。
そんなおれの状況、村の人たちは、知る人ぞ知るなんじゃないかな。
護衛の騎士たちがたくさんいるんだから、かえって安全だからいいやって思われているのかもしれない。
だって暇さえあれば子どもたちが遊びに来る。
時々、招いていない客も連れてくるけど。
「じゅた~」
「はーい、裏にいるよ~」
今日も呼ぶ声に応えたら、裏の畑に姿を見せたのは、サナとオファっていう女の子二人と、見覚えのある神官。
うわって、なった。
神官がわざわざ来るなんて、なんだろう。
また、説教かな。
おれは物知らず……っていうか、まだ常識知らずなとこが多いから、お説教されるのはしょうがないと思う。
思うんだけど、自分より小さい女の子の前ではやっぱり少し気恥ずかしいので、ご遠慮したいなあってなっても、しょうがないよね。
だからこっちから先に、女の子たちに声をかけた。
「サナ、オファ、どうした?」
「あのね、ジュタ、お庭のお花を分けて欲しいの」
「薬にしないお花、貰えますか?」
「花?」
もじもじしながら二人が言うには、二人が姉と慕っているヒトが嫁入りで村を出るのに、持たせたいんだそうだ。
花嫁のブーケ的なやつかな?
二人は硬貨がいくつか入った、小さな巾着袋を差し出して言った。
「これでもらえるだけください」
ええと、そうは言われてもな……
「別に売りもんじゃないから、好きなだけ持って行ってもいいよ」
「でもね、それじゃ、困るの」
「嫁入りだからね、タダじゃダメなの」
ん~?
結婚だと、色々と物入りで大変そうだし、花くらいプレゼントしたいなって思うんだけど、それはダメってこと?
ただじゃダメってどういうことだ?
「あなたは、人に譲られたものを誰かの贈り物にしますか?」
サナとオファとおれ。
お互いに困った顔で首をかしげていたら、神官がため息をつきながら口をはさんできた。
「この子たちにとって大切な人への贈り物です。自分たちのできる限りをしてあげたいのでしょう。我々は新たな人生の門出には、その人の幸せを願って、自分にできるだけの贈り物をするのです。あなたにその気はなくとも、対価を払わずにいるのは、受け取る相手の幸せを目減りさせると言われているのですよ」