ああ。
ああって思った。
神官の言葉はおれを責めるものじゃなくて、単純にそういうものだっていう説明だったけど、でも、おれはホントに物知らずだなって、刺さった。
令和日本にいても、子どもの立場に甘んじていたおれは、冠婚葬祭の常識なんて親任せで、きっと物知らずのままだったと思う。
でもさ。
知らないってことを、こんなに実感しなかったと思うんだ。
「たとえ売り物ではなくとも、必要な対価を受け取ってあげてください」
「うん、わかった……ありがと」
神官の言葉にうなずいて、おれは巾着袋を受け取る。
「おいで。薬と関係ない花はこっち」
二人を手招いて、畑の隅に連れて行った。
毎朝誰かから届けられる花束の花の中に、気がついたら枯れきる前に小さな根を出しているのがいくつかあったんだ。
昔、ばあちゃんがそういうやつを土に差して育てていたのを思い出したから、真似っこしてみたら、育っちゃった。
それで畑の外側は、花畑。
予想以上にすごい勢いで育っちゃって、おれも驚いているんだけど、何故かずっと途切れないで咲き続けている。
「ここのは摘んでいい分。好きなだけどうぞ」
「好きなだけ?」
「そう。好きなだけ摘んで花束にしていいから、お祝いにおれも混ぜてくれる?」
二人の顔が、ぱあって輝いた。
うん、贈り物だから立派な花束が渡せるなら、嬉しいよね。
神官の方を見たら、それでいいよって顔していたから、これであってるんだってホッとした。
それで、巾着から硬貨を一つ出して、二人に頼んだ。
「ウチには花以外、花束を飾る材料が何もないから、これで、リボンや包み紙を買って綺麗に包んで」
「いいの?」
「ちゃんとおれも一緒だって、『おめでとう』って伝えてくれるんだろ?」
「もちろん!」
「ありがとう、ジュタ!」
二人はにこにこと嬉しそうに花を選び始めたので、おれはほっと胸をなでおろす。
贈り物にケチがつかないのは、何よりだ。
そのまま二人をそっとしておこう。
神官に目配せをしてその場を離れた。
さて、次はお説教なのかなあ。
「で、なんかあった?」
さっきまでしていた掘り出した薬草の根っこの選別作業、続きをどうしようかと見下ろした。
どの程度話を聞かなきゃいけないのかな。
「聖女ジュー」
片手を胸に当てて、神官が膝をつく。
「違うよ。おれはただのジュタ」
「さら地だったこの庭を、花園のようにした御業を、否定するのですか?」
「普通に農作業してただけだもん。肥料やって水やりしてたら、育つでしょ」
「それだけの作業でこの花園を作り上げたあなたに、お願いがございます」
頭を下げた神官が言葉を口にする前に、きっぱりと断りを入れたのはミリヒ。
「王宮になら行かせないよ」
いつの間にかおれの横に立って、渋い顔で神官を見下ろしている。
「ミリヒ」
「守り人殿」
「どうしても必要だというなら、必要だと思う奴が自らここに足を運べばいい。例えそれが王であっても」
それが条件だったはずだと、厳しい顔で、ミリヒがそう言った。