零夜たちが地球に帰還すると、地球中が彼らの凱旋に沸き立った。悪鬼をバッタバッタと倒しまくる八犬士の活躍は異世界ハルヴァスから地球中に伝わり、誰もがその帰還を首を長くして待っていたのだ。
零夜、倫子、日和、アイリン、エヴァ、マツリ、トワ、エイリーン、ベル――九人の英雄たちは一躍スターに! イベントやテレビ番組に引っ張りだこで、スケジュールはパンパン。さらには、なぜかヤツフサまでマネージャー兼ペットとして同行させられ、忙しい日々に振り回される羽目に。
「マネージャーって何だ! 俺はただの犬じゃなくてフェンリルだからな!」
ヤツフサの不満をよそに、零夜たちは新たな挑戦へ。
零夜は目標である団体のDBW、アイリン、エヴァ、マツリ、トワ、エイリーン、ベルは東京BGPの練習生として、地球でもプロレスラーとしてリングに上がることになった。
「悪鬼倒すだけでなく、今度はリングか! 俺の人生、休む暇ないですね……」
「それが八犬士の宿命だからね」
零夜のぼやきに仲間たちは笑い合い、リングでの特訓に汗を流していた。彼ら九人でプロレスユニットを作り上げ、新たな物語を切り拓くためにも……。
※
数日後、世間はクリスマスシーズン真っ盛り。港区の街はイルミネーションでキラキラ輝き、どこを見てもカップルがイチャイチャ。甘ったるい空気が漂う中、新宿のオフィスで仕事中の零夜は、窓の外を眺めて一息ついていた。
「クリスマス・イブか……。カップルばっかだな。まあ、俺には仲間がいるから関係ないけど!」
零夜が書類を手に取って仕事を再開しようとしたその瞬間――ドスンと背後から肩に重い手がのしかかってきた。 まるで悪鬼の気配のようなプレッシャーに、零夜の背筋が凍る。
「なんだ!?」
振り返った瞬間、零夜は驚きのあまり椅子からド派手に転げ落ちた。そこには長谷川を筆頭とする同僚たちが、嫉妬の炎をメラメラと燃やしながら仁王立ちしていた。 しかも、全員が「倫子推し!」「日和命!」「エヴァ様最強!」などと書かれたハチマキを巻き、まるで戦国武将のような気迫となっている。
「お前、倫子ちゃんや日和ちゃんと同棲してるってマジか!?」
「八犬士だからって、調子に乗ってんじゃねえぞ!」
「ち、違う! あれは八犬士の絆を深めるための共同生活で――!」
零夜は慌てて弁解するが、長谷川たちの怒りはヒートアップする一方。焼け石に水としか言えない。
「絆!? ふざけんな! お前だけ美女たちとイチャイチャしやがって!」
「俺たちと交代しろ! 八犬士は俺がやる!」
「できるか! エヴァや倫子さんたちによって、一瞬で病院送りにされるのがオチだろ!」
零夜の反撃に、長谷川たちは「ぐはっ!」と胸を押さえてバタバタ倒れる。だが、一人が這いずりながら食い下がる。
「だったらせめて倫子ちゃんのサインくれよ……!」
「自分で頼め!」
零夜の冷たい一言に、ついに全員が「ガハッ!」と血(に見える何か)を吐いて気絶。哀れとしか言いようがないが、自業自得である。
「ったく、モテない奴らの嫉妬って怖えな……」
呆れた零夜は書類をまとめ、仕事を終わらせる。それを上司に渡した直後、彼はコクリと頷きながら承諾した。
「長谷川たちは俺が片付ける。帰っていいぞ」
「助かります!」
零夜は上司に対して一礼した後、すぐに帰宅の準備を始める。同時に終業のベルが鳴り響き、気絶した同僚たちはゾンビのようによろよろと起き上がり、トボトボ帰り始めた。
※
「まったく、アイツら何考えてんだよ……」
新宿の街を歩きながら、零夜は盛大なため息をつく。嫉妬深い同僚たちの行動は滑稽だったが、どこか哀愁も感じさせる。
「さて、帰りに何か買ってくか。チキンやケーキは倫子さんたちが用意してくれるだろうし――」
「零夜くーん!」
「お、倫子さん! って、うわ! ヤツフサさんまで!?」
零夜考え込んでいたその時、倫子が笑顔で現れてきた。足元にはヤツフサが不機嫌そうに唸りながら歩いていた。
「倫子さんは仕事帰りの様ですが……ヤツフサさん、なんでそんな顔してるのですか?」
「マネージャーとしての活動は勿論だが、ペットとして活動しろと扱かれたからな。 俺はフェンリルだぞ!」
ヤツフサの愚痴に、倫子はクスクス笑いながら答える。他の皆も彼の話を聞いたら笑うに決まっているだろう。
「私もプレゼント買いに出てたの。零夜くんは何か買う?」
「そうですね、俺は――」
零夜が答えようとしたその瞬間――突然、近くで爆発音が響き、街中に悲鳴がこだまする。人々がパニックで逃げ惑い、この光景に零夜たちは警戒しながら辺りを見回し始める。
「今の爆発は……」
「あっ! あれ!」
倫子が指差す方向を見ると――そこには、褌一丁の屈強な男たちがいた。 なぜかカップルだけを狙い、棍棒やハンマーで次々と襲いかかっている。
「ヒャハハ! アベック狩りだ! クリスマスなんてぶっ潰してやる!」
「イチャつく奴らに天誅を! モテやがる奴らは許さねえ!」
「うわっ、助けて!」
「嫌あああ!」
カップルたちが次々とやられ、街はカオス状態。倫子は目を丸くし、零夜とヤツフサは真剣な表情で敵を睨みつけていた。
「大変! 変な集団がカップルを襲ってる! このままじゃクリスマスが台無しよ!」
「倫子さん、皆に連絡を! 俺はアイツらを止めに向かいます!」
「分かった! でも、無理しないでね!」
「心配だから俺も立ち向かう!」
倫子がスマホで仲間たちに連絡、ヤツフサはフェンリルの大きさになって戦闘態勢に入る。零夜は一瞬で忍者衣装の戦闘服に姿を変え、 手元には手裏剣が構えられていた。
(せっかくのクリスマスをぶち壊すとはな……まとめて片付けてやる!)
零夜は心の中で思いながら、一気に騒動の中心へ飛び込む。褌男たちに手裏剣を投げつけ、次々と敵をなぎ倒した。
「がはっ!」
「ぐほっ!」
手裏剣が正確に命中し、男たちは奇声とともにバタバタ倒れる。だが、敵の数はまだまだ多いので油断はならない。
「残りは俺に任せろ! ウルフタックル!」
ヤツフサは強烈なタックルを繰り出し、男たちを次々と倒していく。彼らは地面に激突して動かなくなり、光の粒となって消滅した。
「半分くらい片付けたか……! これは長期戦になりそうですね」
「そうだな。しかし、敵が光の粒となったとなれば……恐らく異世界から来た者たちに違いないな」
零夜とヤツフサが敵の数を確認したその時、群衆をかき分けて一人の男が現れる。褌姿だが、筋肉は岩のようにゴツく、額には「無敵」と書かれたねじり鉢巻き。威圧感たっぷりに零夜とヤツフサを睨みつける。
「俺の部下を次々倒すとは……八犬士、いい度胸だな!」
「お前は何者だ!?」
「俺の名はハスラー斎藤! 悪鬼Dブロック基地のボスだ!」
「Dブロックのボスだと!? こんな街中で何企んでいるんだ!」
零夜は驚きつつも、すぐに戦闘態勢へ。ハスラーの登場は完全に想定外だったが、敵がいる以上、戦うしかないだろう。
「クリスマスをぶち壊し、モテない奴らの恨みを晴らす! お前もその一人だろ、八犬士!」
「俺はそうじゃないけどな。だが、クリスマスをぶち壊すなら容赦しない!」
「俺は残りの敵を倒しに向かう!」
ハスラーがマッスルポーズで挑発すれば、零夜は格闘技の構えで応戦。ヤツフサは残りの敵を倒す為、スピードを上げて彼らに立ち向かう。
街のイルミネーションが戦いの行方を照らす中、クリスマス・イブの戦いは一気にヒートアップしていた。