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第93話 地下迷宮の冒険

 零夜達は地下迷宮の入口前に集結し、彼は全員が揃っているか鋭い目で確認していた。ここにいるのは零夜率いる八犬士――倫子、日和、アイリン、エヴァ、マツリ、エイリーン、トワ――に加え、ベル、ヤツフサ、ヒカリ、椿、そして逃走者の一人である女性だ。

 その女性の顔を見た瞬間、零夜の目に閃光が走る。  


「あっ、あなたは確かギャルモデルのりんちゃむさん! 逃げていたのはハンティングマンに追われていたのですね」

「そうだけど……ここは一体何処なの?」  


 りんちゃむはキョロキョロと周囲を見回し、戸惑った声で零夜に尋ねる。見慣れない薄暗い石造りの空間と、どこか不気味な空気に、彼女の不安は隠せない。  


「りんちゃむ。ここは地下迷宮よ。つまりアンタはこの場所へ勝手に入ってしまったという事なの」

「ええっ⁉ じゃあ、ウチはこの場所に迷い込んだって事⁉」  


 ヒカリの説明に、りんちゃむは目を丸くして驚愕する。あの時、怪しい扉を開けなければこんな事態にはならなかったはずだ。だが、振り返っても扉は消え、元の世界への道は閉ざされている。  


「こんなところで死ぬなんて嫌だ! 元に戻してよ!」

「それはできませんよ! しかしこの先に秘宝がある為、俺達は前に進む必要があります!」

「秘宝……?」  


 りんちゃむは零夜の胸元を掴み、涙目で訴える。だが、零夜が「秘宝」という言葉を口にした瞬間、彼女の目がキラリと光る。興味を抑えきれなかったのだ。  


「それってマジあるん⁉ ウチも欲しいんですけど!」

「けど、気を付けてくださいよ! モンスター達とかいますから!」  


 目を輝かせるりんちゃむに、零夜は苦笑いしながら前方を示す。そこには、角を不気味に光らせたツノラビの群れが、地面を蹴って襲い掛かろうとしていた。  


「何あれ? めちゃくちゃ可愛いんだけど」

「あれはモンスターのツノラビ。可愛いけど、油断すると痛い目に遭うから」

「う……」  


 りんちゃむはツノラビの愛らしい見た目に一瞬心を奪われるが、倫子の警告に顔を青ざめさせる。この可愛らしい外見に騙されれば、鋭い角の一撃で大ダメージは必至だ。  


「仲間にすれば心強いけど……ここは倒しちゃおう! 既に数は揃っているし」

「ええ。攻撃開始!」  


 日和の号令一下、八犬士たちは一斉に武器を構え、戦闘態勢に突入。ツノラビの群れは低いうなり声を上げ、角を振りかざして突進を開始。地面を震わせるその勢いは、まるで小さな戦車の大群だ。  


「させるか! くらえ!」  


 零夜が叫び、両手に握った手裏剣を疾風のように投擲。鋭い金属音と共に手裏剣が空を切り、弧を描いてツノラビの群れに突き刺さる。一瞬にして複数のツノラビが悲鳴を上げ、金貨とウサギの肉、ドリルに変化して地面に崩れ落ちる。零夜は素早く忍者刀を抜き、双剣を閃かせて突進してきた個体を両断。鮮やかな剣捌きで敵を薙ぎ払う姿は、まさに忍の化身だ。  


「流石は忍者ね!」

「このくらい余裕ですよ!」

「ウチも負けへん!」 


 ヒカリの賞賛に、零夜は軽やかに微笑み返す。その刹那、倫子がリングブレードを両手に構え、華麗な舞踏のように回転しながら戦場に躍り出る。リングブレードが風を切り、鋭い刃がツノラビを次々と切り裂く。彼女の動きは流れるような美しさと凶暴さを兼ね備え、敵の群れを瞬く間に削り取っていく。  


「私も後に続かないと!」


 日和は二丁拳銃を構え、軽快にステップを踏みながら引き金を連射。銃口から迸る閃光と共に、弾丸がツノラビの急所を正確に撃ち抜く。彼女の射撃はまるでダンスのようにリズミカルで、敵が近づく前に次々と仕留めていく。  


「動きが遅いわよ!」


 アイリンは拳を握り、低く構えると地面を蹴って突進。素手とは思えない破壊力で、ツノラビを一撃で粉砕。彼女の拳が炸裂するたびに、衝撃波が周囲の敵を吹き飛ばす。


「攻めて攻めて攻めまくる!」


 エヴァはグロー付きガントレットを光らせ、豪快に拳を振り下ろす。ガントレットから放たれるエネルギーの衝撃で、ツノラビが群体ごと弾け飛ぶ。シルバーウルフである彼女の攻撃は力強く、戦場に轟音を響かせる。


「甘く見るなよ!」


 マツリは刀と盾を手に、攻防一体の戦法で立ち回る。盾でツノラビの突進を受け止め、すかさず刀で反撃。彼女の冷静な判断力と堅実な戦いぶりが、チームの守りを固める。  


「「そーれ!」」


 エイリーンとベルはロングアックスを振り回し、豪快な一撃で敵を薙ぎ払う。二人の斧が交錯するたびに、ツノラビが断末魔の叫びを上げて倒れていく。


「喰らいなさい!」


 トワは後方から弓を引き、矢を放つ。彼女の矢はまるで意志を持つかのように正確に敵を捉え、一射ごとにツノラビを貫く。その冷静沈着な射撃が、戦場の流れをコントロールする。  


「残りは私がやります! アックススラッシュ!」  


 エイリーンが雄叫びを上げ、ロングアックスを高く振りかぶる。渾身の一撃が地面を割り、衝撃波と共に残りのツノラビを一掃。戦場に静寂が訪れる。


「任務完了……きゃっ!」  


 エイリーンは得意げに斧を担ごうとするが、勢い余ってツルツルの床で滑り、尻もちをついてしまう。彼女のドジっ子ぶりに、戦場の緊張が一気に和む。  


「大丈夫?」

「痛いです……!」  


 りんちゃむが駆け寄り、エイリーンを優しく立ち上がらせる。彼女の手でエイリーンのお尻の埃をパンパンと払いながら、笑顔で声をかける。  


「はい。もう大丈夫」

「すいません。ありがとうございます!」

「気にしないで。こういうのは慣れているから」


 エイリーンは感謝の笑みを浮かべ、りんちゃむは軽く彼女の頭を撫でる。その視線は、すぐに迷宮の奥へと向けられていた。  


「この先に秘宝があるのなら、ウチは必ずその秘宝を掴み取る! 今は逃走ロワイアルどころじゃないし、巻き込まれた以上は戦うのみ!」  


 りんちゃむの決意に、椿とヒカリも力強く頷く。彼女たちは戦士ではないが、サポート役としての役割を果たす覚悟を固めていた。 


「確かにそうね。私達は戦う事はできないけど、サポートならできるわ」

「私も日和が頑張っている以上、できる限りの事をしないと!」  

「分かりました。では、サポートをお願いします!」  


 零夜は一礼しながらヒカリ達の決意に応え、一行は迷宮の奥へと進む。炎の灯りが揺らめく薄暗い通路は、どこか不気味な雰囲気を漂わせる。


「この辺りのモンスターはツノラビだけでなく、バット、ゾンビ、インプ、フランケンなどがいるわ。薄暗いから用心していかないとね」

「うん……」  


 トワの冷静な警告にヒカリが頷く中、突然、バットの甲高い鳴き声が響く。それを聞いた彼女は思わず身を縮め、零夜にしがみついてしまう。


「もしかすると大きいバットが出たんじゃ……」

「いいや。あんな大きいのが出るなんてあり得ないですよ。それにバットは小さくて……ん?」


 零夜が前方を凝視すると、そこには小さなバットの群れが十匹、羽音を立てて襲い掛かってくる。だが、その数は脅威というにはあまりにも少ない。  


「やっぱり小さかったみたい」

「じゃあ、マジカルハート!」  


 倫子が両手でハートを作り、眩い光線を放つ。光の奔流がバット達を直撃し、瞬く間にスピリットと化して彼女のバングルに吸い込まれる。  


「凄い! こんな事もできるんだ!」

「へへっ! ウチはこう見えてもオールラウンダーやから!」  


 ヒカリが手を叩いて驚く中、倫子はウインクで応える。だが、その直後、一行の前に不気味な部屋が現れる。広大なドーム型の空間は、静寂に満ち、どこか危険な予感を漂わせていた。  


「この部屋、なんか危険な雰囲気が感じられるわね……」

「入るだけでも怖いと思うが、この先を通り抜けないと先に進めないからな……」  


 エヴァとマツリは冷や汗を流しながらも、進むしかないと腹を括る。この先に財宝があるとすれば、背に腹は代えられない。


「そうするしかないみたいね……じゃあ、入りましょう」  


 アイリンの言葉と共に、一行は部屋に踏み込む。広大な空間には何もなく、ただ次の通路へと続く扉が見える。だが、その静けさが逆に不気味さを増していた。  


「この部屋には何もないが、その先には次の通路があるな」

「何をするつもりなんだろう?」  


 ヤツフサと日和が真剣な表情で推測する中、背後の扉が突然、轟音と共に閉ざされる。突然の展開に倫子たちは一瞬驚いてしまい、零夜たちは冷や汗を流している。


「扉が閉められた!」

「一体何をするつもりなの⁉」 


 驚愕する一同の前に、突如、空中にウインドウが浮かび上がる。画面が点灯し、そこに映し出されたのは――  



「やはりこの地下迷宮に入ってきたみたいだな……英雄達よ」

「リッジ……!」  



 Cブロック隊長リッジの姿に、零夜達は一斉に鋭い視線を向ける。彼らの戦いは、まだ始まったばかりだった。  

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