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第137話  世界樹のダンジョン

 ハルヴァスへの帰還から数日後、零夜たちはそれぞれの道を歩み始めていた。

 椿は「WDG48」のメンバーと共に、ハルヴァスでの冒険とアイドル活動を両立させていた。メンバーたちは異世界に強い興味を抱き、プロダクションも市場拡大を決断。その結果、彼女たちの人気は急上昇し、冒険を楽しみながら一石二鳥の状況にあった。

 りんちゃむはネットチューブ配信を続けながら、タレント活動と異世界の冒険を満喫していた。配信の効果で登録者数は急増し、今や人気は絶頂に達していた。

 ヒカリはソロで異世界の冒険を楽しんでいたが、モンスターを仲間にするスキルの習得に励んでいる。今後さらに厳しい戦いが予想されるため、モンスターの力を借りるべく、スキル習得に全力を注いでいた。


 ※


 一方、零夜たちはギルドのクエストボード前で、今回のクエストを選んでいた。目的は倫子のモンスターたちの進化であり、必要な進化素材の場所を確認していた。


「ユニコーン、バイコーン、リトルペガサスを進化させたいけど、どのクエストがいいか迷うな……」

「ユニコーンとバイコーンには進化の翼、リトルペガサスにはレベルアップが必要よね。となると、進化の翼がある場所は……」


 倫子はクエスト一覧を眺めながら、真剣な表情で考え込む。その様子を見たトワは真剣に頭を巡らせ、進化の翼の在処を探し始めた。すると、突如閃きが脳裏をよぎり、仲間たちに視線を向けた。


「だったら、あそこに行くしかないわね。世界樹内部のダンジョンよ」

「「「世界樹のダンジョン!?」」」


 トワの衝撃的な提案に、零夜たちは驚きを隠せなかった。世界樹にダンジョンがあるなど、誰も予想していなかっただろう。

 世界樹といえば、様々な文化や神話に登場する世界を支える巨大な木の象徴だ。神秘的なエネルギーや強大な力を秘め、伝説の樹と称される。ハルヴァスだけでなく、ワンダーエデンや他の世界にも存在している。


「そう、数ヶ月前に世界樹内部にダンジョンが形成されたの。そこはS級冒険者でも危険と言われる場所で、強力なモンスターがひしめいているわ。ユニコーンやバイコーンの進化に必要な進化の翼も、そこにあると判明してるのよ」


 トワの真剣な説明に、零夜たちは興味津々で耳を傾けた。世界樹の迷宮には危険が伴うが、修行の場として最適であり、モンスターの強化素材も手に入る。まさに一石二鳥の好機だ。


「じゃあ、すでに世界樹に入った冒険者もいるの?」

「多くの冒険者が挑戦したけど、無事に帰還できたのはごくわずかよ。奥には世界樹の財宝があるらしいけど、それを手に入れられるのは真の勇者とその仲間だけ。今のハルヴァスには勇者がいないから、誰も財宝にたどり着けていないわ」


 日和の質問に対し、トワはさらに詳しく説明を続けた。多くの冒険者たちの死はゾッとしてしまうが、それだけ多くの危険性があると感じられる。世界樹を甘く見ると痛い目に遭うとなれば、慎重に行動しなくてはならないだろう。


「なるほど……でも、私たちの目的は進化の翼とレベルアップだけ。悪鬼を倒すのが最優先だからね」

「その通り。今はパニグレを倒すため、アタイたちも強くなるのみだ。財宝は真の勇者と仲間たちしか開けられないし、後回しだな」


 エヴァとマツリの真剣な言葉に、皆が頷き同意した。今回の目的はパニグレ討伐であり、余計なリスクは避けるべきだ。下手をすれば怪我人も出かねない。


「確かにその通りですね。えーっと、世界樹関連のクエストは……あった!」


 エイリーンはクエストボードを熱心に眺め、世界樹関連のクエストを見つけ出した。そこには、凶悪なデーモンを倒す任務が記されていた。しかも、そのデーモンは黒く染まったダークモンスターであることが明らかだった。


「まさかダークモンスターとは……でも、世界樹にいるなら好都合。このクエストに決定ね!」


 アイリンの笑顔に、零夜たちも笑顔で頷き同意した。ダークモンスターがいるなら目的の素材も手に入れられ、まさに一石二鳥。零夜はクエスト用紙を手に、受付カウンターのメリアのもとへ向かった。


「こちらをお願いします!」

「ダークモンスター関連ですね。では、早速……」


 メリアは手慣れた様子でパソコンを操作し、零夜たちのクエスト受付を進めた。数分で手続きが完了し、モニターには零夜たちのチーム名が表示された。


「受理完了しました。必要な道具を揃えてから出発してくださいね」


 メリアの笑顔に応え、零夜たちはギルド内のショップで準備を始めた。世界樹のダンジョンには罠も多く、ランプなどのアイテムが不可欠だ。危険な場所だからこそ、準備は念入りに進める必要があるのだ。


「よし、アイテムは十分揃ったな」

「それじゃ、世界樹へ出発よ!」


 カルアがアイテムを最終確認し、準備万端を宣言。ベルの合図と共に、零夜たちはギルドを飛び出し、世界樹へ向かった。初めての地への期待と興奮を胸に、どんな冒険が待っているのか楽しみでたまらなかった。


「お気をつけて!」


 メリアは手を振って零夜たちを見送った。彼らなら無事に帰ってくると信じながら。


 ※


 零夜たちは、倫子が召喚したドラゴン、ワイバーン、グリフォンに乗り、世界樹へと移動していた。クローバールから世界樹まではかなりの距離があるため、飛行モンスターでの移動が効率的だった。


「世界樹のダンジョンか……どんなところか楽しみだな」

「私も詳しいことは分かりませんが、きっとすごい発見があるはずです。未知の冒険って、ワクワクしますね」


 零夜はこれから向かう世界樹に胸を高鳴らせていた。メイルはそんな彼を見て、微笑みながら声をかけている。

 誰もが初めての世界樹に期待を寄せ、未知との出会いに心を躍らせていた。こんな場所に行けるだけでも、幸せを感じる瞬間だった。


「とにかく、俺たちの目的は悪鬼とダークモンスターの討伐だ。特に今回のダークデーモンはかなり強くて、苦戦するかもしれない。下手な油断は命取りだから、気をつける様に!」

「そうでしたね……ダークデーモン、どんなやつなんだろうな……」


 ヤツフサの真剣な忠告に、零夜は慌てて本来の目的を思い出した。真剣な表情でダークデーモンについて考え始めた。これからの戦いは今までとは違い、気を引き締めなければいけない。零夜はそう心に刻み、前を見据えていた。


 ※


 零夜たちは世界樹の前にたどり着き、目の前にそびえる目的地を見据えた。それはあまりにも壮大な樹木で、ただ眺めるだけでも心を奪われるほどの威容を誇っていた。彼らはその荘厳さに魅了され、うっかり本来の目的を忘れそうになるほどだった。


「到着したが、ここからが本番だ。世界樹の入口を探さないと」


 零夜が周囲を見回しながら入口を探そうとしたその瞬間、メイルが鋭い視線である場所を捉えた。世界樹の根元に、ぽっかりと開いた大きな穴が目に入ったのだ。そのそばには看板が立てられており、そこには「世界樹ダンジョン入口」とはっきり記されていた。


「見つけました! 世界樹ダンジョンの入口です!」

「よし! すぐにその場所に向かうぞ!」


 メイルの報告を受け、ヤツフサの力強い合図とともに、一行は世界樹ダンジョンへの入口へと歩みを進める。こうして、彼らの世界樹ダンジョンでの冒険が幕を開けたのだった。

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