目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第160話 皆がいるから

 Bブロック基地での死闘から数日後、零夜たちはマツリの故郷であるジャバラ村跡を訪れていた。この地で命を落とした人々の墓参りと、パニグレを倒したことを報告するためだ。

 戦いに参加した涼子、アリス、めぐみ、かなめの四人に加え、零夜と契約するライラ、ユウユウ、ジャスミン、ラビーも同行していた。


「村の皆、パニグレは死んだよ。奴はダークモンスターを次々に生み出したけど、皆のおかげで勝利できた。その最期は涙を流して後悔していたが、これから地獄で裁かれる。もう、皆を不安にさせることはないからな。だから……どうか、ゆっくりと……眠ってくれよ……」


 マツリは村人たちへ報告しながら、途中で涙が溢れ、声を詰まらせた。村を失った悲しみがまだ癒えず、涙が止まらないのも無理はなかった。

 その姿を見たエヴァは、そっとマツリの背後に駆け寄り、背中から優しく抱きしめた。それはまるで母の温もりのような抱擁で、幼馴染が泣いているのを放っておけなかったのだ。


「マツリ、こういうときは泣いてもいいんだよ。あなたは一人じゃない。みんながいるんだから……」

「エヴァ……うあああああ!」


 マツリは我慢できず、エヴァの胸に飛び込んで顔を埋め、声を上げて泣き叫んだ。これまで涙をこらえてきたマツリだったが、村の仇を取ったことで、せき止めていた感情が一気に溢れ出した。エヴァの優しさがそのきっかけとなり、今この瞬間へと繋がっていた。

 その様子を目の当たりにした倫子たちも、もらい泣きしていた。零夜とヤツフサは静かにその光景を見つめていた。


「マツリの因縁の戦いも終わったな。彼女にこんな一面があるとは、意外だった……」

「ええ。でも、因縁を無事に清算し、八犬士として覚醒した。それだけでも十分価値があると思いますよ」

「そうだな……」


 零夜の言葉にヤツフサも頷き、視線をエヴァとマツリへ移した。二人の姿からは友情だけでなく、絆の深さが感じられた。ヤツフサは感心した表情で、マツリが泣き止むまで見守ろうと心に決めた。


 ※


「悪いな。みっともないとこ見せちまって……」


 数分後、ようやく泣き止んだマツリは、拳で涙を拭いながら苦笑した。大泣きしたのは恥ずかしかったが、心の重荷が軽くなり、すっきりしていた。


「気にしないでいいよ。それで、マツリ、これからどうするの?」


 エヴァは柔らかく微笑みながら、マツリに今後のことを尋ねた。マツリは仲間たちに視線を巡らせ、決意の表情を浮かべた。


「アタイはこれからもみんなと一緒に進むぜ。タマズサって悪の親玉をまだ倒してねえし、何より、みんながそばにいる。それだけで最高に幸せだからな!」

「マツリ……!」


 マツリの笑顔に、エヴァは目に涙を浮かべながら再び抱きしめた。だが、力いっぱいの抱擁はマツリの体に響き、骨が軋むような痛みが走った。その様子に零夜たちが驚いたのも無理はない。


「いだだだ! 強すぎるからやめてくれ!」

「ご、ごめん!」


 マツリの悲鳴に慌てたエヴァは、すぐに手を離した。このまま続けていたら、大変なことになっていたかもしれない。


「あとは涼子さんたちですね。引き続き冒険者として活動するって聞きましたけど……」


 エイリーンは涼子たちに視線を向け、問いかけた。トワたちも彼女たちに注目する。

 今回の戦いでは涼子たちの助けが大きかったが、いつまでも一緒にいるとは限らない。タレントや女優の仕事があれば、そちらを優先する可能性もあるからだ。


「ええ。私、かなめ、めぐみは冒険者を続けながら、タレントや女優の仕事もこなしていくわ。今回の戦いで自分の力不足を痛感したし、これからはあなたたちに追いつけるよう精進するつもりよ」


 アリスが代表して力強く宣言し、かなめとめぐみも頷いて同意した。零夜たちのサポートは成功したが、彼らの活躍を見て実力の差を痛感していた。今後は冒険者として鍛えつつ、いつもの仕事を両立させる決意だった。


「私はいろんな術や技を覚えてるけど、プロレスも習おうと思ってるの。あなたたちの活躍を見て、まだまだやりたいことがたくさんあるって思ったから」

「は? プロレス?」


 涼子の発言に、零夜たちは思わず唖然とした。彼女がプロレスラーになるとは予想外で、呆けた表情になるのも無理はなかった。


「うん。自分の力を試したいって決意したの。それに、衣装も変えようかなって」

「まさかとは思うけど……ウチらと同じ裸オーバーオールになるのん?」


 涼子の言葉に反応した倫子が、気になって尋ねた。零夜のパーティーで裸オーバーオールを着るのは、倫子、ベル、メイルの三人だけ。その中でもオールラウンダーとして活躍するのは倫子とベルだ。涼子もオールラウンダーを目指している可能性がある。


「そう。オールラウンダーになろうかなって思ってるから」

「恥ずかしいからやめたほうがいいよ。絶対そうなるから!」


 涼子の笑顔に、倫子は冷や汗を流しながら忠告した。オールラウンダーになれば、裸オーバーオールは避けられない。好きな服を選べなくなる不便さもあるのだ。


「私は気に入ってるよ。この衣装、良い子良い子しやすいし」


 ベルはオーバーオールを軽く引っ張りながら満足げに言い、チラリと零夜たちに視線を投げた。それを見た彼らは背筋を伸ばし、慌てて回れ右をした。


「え、今からでも……」

「冗談じゃないわよ!」

「待ちなさい! 良い子良い子したいんだから!」

「勘弁してくれ~!」


 零夜、アイリン、トワ、エイリーンの四人は、ベルに絡まれるのが苦手で、一斉に駆け出して逃げ出した。ベルは猛スピードで追いかけ、ドタバタの騒動が巻き起こった。

 その光景を見たエヴァ、マツリ、倫子、カルア、日和、ヤツフサ、ライラ、ユウユウ、ジャスミン、ラビーは呆然とし、メイル、涼子、アリス、かなめ、めぐみは苦笑しながら見守った。


「まあ、こんな光景、なんか私たちらしいよね……」

「だな……」


 日和の言葉に、マツリはため息をつきながら頷き、零夜たちのいる方向へ視線を移した。零夜、トワ、アイリンは逃げ切ったものの、エイリーンはベルに捕まり、抱きしめられて頭をよしよしと撫でられていた。


(前途多難なこともあるかもしれないけど、アタイはみんなに出会えて本当によかった。これからもよろしくな、みんな!)


 マツリは心の中でそう思い、仲間たちに感謝しながら微笑んだ。零夜たちと出会わなければ、今の自分はここにいなかっただろう。

 エヴァもまた微笑み、青い空を見上げた。雲一つない快晴の空が、どこまでも広がっていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?