Bブロック基地での死闘から数日後、零夜たちはマツリの故郷であるジャバラ村跡を訪れていた。この地で命を落とした人々の墓参りと、パニグレを倒したことを報告するためだ。
戦いに参加した涼子、アリス、めぐみ、かなめの四人に加え、零夜と契約するライラ、ユウユウ、ジャスミン、ラビーも同行していた。
「村の皆、パニグレは死んだよ。奴はダークモンスターを次々に生み出したけど、皆のおかげで勝利できた。その最期は涙を流して後悔していたが、これから地獄で裁かれる。もう、皆を不安にさせることはないからな。だから……どうか、ゆっくりと……眠ってくれよ……」
マツリは村人たちへ報告しながら、途中で涙が溢れ、声を詰まらせた。村を失った悲しみがまだ癒えず、涙が止まらないのも無理はなかった。
その姿を見たエヴァは、そっとマツリの背後に駆け寄り、背中から優しく抱きしめた。それはまるで母の温もりのような抱擁で、幼馴染が泣いているのを放っておけなかったのだ。
「マツリ、こういうときは泣いてもいいんだよ。あなたは一人じゃない。みんながいるんだから……」
「エヴァ……うあああああ!」
マツリは我慢できず、エヴァの胸に飛び込んで顔を埋め、声を上げて泣き叫んだ。これまで涙をこらえてきたマツリだったが、村の仇を取ったことで、せき止めていた感情が一気に溢れ出した。エヴァの優しさがそのきっかけとなり、今この瞬間へと繋がっていた。
その様子を目の当たりにした倫子たちも、もらい泣きしていた。零夜とヤツフサは静かにその光景を見つめていた。
「マツリの因縁の戦いも終わったな。彼女にこんな一面があるとは、意外だった……」
「ええ。でも、因縁を無事に清算し、八犬士として覚醒した。それだけでも十分価値があると思いますよ」
「そうだな……」
零夜の言葉にヤツフサも頷き、視線をエヴァとマツリへ移した。二人の姿からは友情だけでなく、絆の深さが感じられた。ヤツフサは感心した表情で、マツリが泣き止むまで見守ろうと心に決めた。
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「悪いな。みっともないとこ見せちまって……」
数分後、ようやく泣き止んだマツリは、拳で涙を拭いながら苦笑した。大泣きしたのは恥ずかしかったが、心の重荷が軽くなり、すっきりしていた。
「気にしないでいいよ。それで、マツリ、これからどうするの?」
エヴァは柔らかく微笑みながら、マツリに今後のことを尋ねた。マツリは仲間たちに視線を巡らせ、決意の表情を浮かべた。
「アタイはこれからもみんなと一緒に進むぜ。タマズサって悪の親玉をまだ倒してねえし、何より、みんながそばにいる。それだけで最高に幸せだからな!」
「マツリ……!」
マツリの笑顔に、エヴァは目に涙を浮かべながら再び抱きしめた。だが、力いっぱいの抱擁はマツリの体に響き、骨が軋むような痛みが走った。その様子に零夜たちが驚いたのも無理はない。
「いだだだ! 強すぎるからやめてくれ!」
「ご、ごめん!」
マツリの悲鳴に慌てたエヴァは、すぐに手を離した。このまま続けていたら、大変なことになっていたかもしれない。
「あとは涼子さんたちですね。引き続き冒険者として活動するって聞きましたけど……」
エイリーンは涼子たちに視線を向け、問いかけた。トワたちも彼女たちに注目する。
今回の戦いでは涼子たちの助けが大きかったが、いつまでも一緒にいるとは限らない。タレントや女優の仕事があれば、そちらを優先する可能性もあるからだ。
「ええ。私、かなめ、めぐみは冒険者を続けながら、タレントや女優の仕事もこなしていくわ。今回の戦いで自分の力不足を痛感したし、これからはあなたたちに追いつけるよう精進するつもりよ」
アリスが代表して力強く宣言し、かなめとめぐみも頷いて同意した。零夜たちのサポートは成功したが、彼らの活躍を見て実力の差を痛感していた。今後は冒険者として鍛えつつ、いつもの仕事を両立させる決意だった。
「私はいろんな術や技を覚えてるけど、プロレスも習おうと思ってるの。あなたたちの活躍を見て、まだまだやりたいことがたくさんあるって思ったから」
「は? プロレス?」
涼子の発言に、零夜たちは思わず唖然とした。彼女がプロレスラーになるとは予想外で、呆けた表情になるのも無理はなかった。
「うん。自分の力を試したいって決意したの。それに、衣装も変えようかなって」
「まさかとは思うけど……ウチらと同じ裸オーバーオールになるのん?」
涼子の言葉に反応した倫子が、気になって尋ねた。零夜のパーティーで裸オーバーオールを着るのは、倫子、ベル、メイルの三人だけ。その中でもオールラウンダーとして活躍するのは倫子とベルだ。涼子もオールラウンダーを目指している可能性がある。
「そう。オールラウンダーになろうかなって思ってるから」
「恥ずかしいからやめたほうがいいよ。絶対そうなるから!」
涼子の笑顔に、倫子は冷や汗を流しながら忠告した。オールラウンダーになれば、裸オーバーオールは避けられない。好きな服を選べなくなる不便さもあるのだ。
「私は気に入ってるよ。この衣装、良い子良い子しやすいし」
ベルはオーバーオールを軽く引っ張りながら満足げに言い、チラリと零夜たちに視線を投げた。それを見た彼らは背筋を伸ばし、慌てて回れ右をした。
「え、今からでも……」
「冗談じゃないわよ!」
「待ちなさい! 良い子良い子したいんだから!」
「勘弁してくれ~!」
零夜、アイリン、トワ、エイリーンの四人は、ベルに絡まれるのが苦手で、一斉に駆け出して逃げ出した。ベルは猛スピードで追いかけ、ドタバタの騒動が巻き起こった。
その光景を見たエヴァ、マツリ、倫子、カルア、日和、ヤツフサ、ライラ、ユウユウ、ジャスミン、ラビーは呆然とし、メイル、涼子、アリス、かなめ、めぐみは苦笑しながら見守った。
「まあ、こんな光景、なんか私たちらしいよね……」
「だな……」
日和の言葉に、マツリはため息をつきながら頷き、零夜たちのいる方向へ視線を移した。零夜、トワ、アイリンは逃げ切ったものの、エイリーンはベルに捕まり、抱きしめられて頭をよしよしと撫でられていた。
(前途多難なこともあるかもしれないけど、アタイはみんなに出会えて本当によかった。これからもよろしくな、みんな!)
マツリは心の中でそう思い、仲間たちに感謝しながら微笑んだ。零夜たちと出会わなければ、今の自分はここにいなかっただろう。
エヴァもまた微笑み、青い空を見上げた。雲一つない快晴の空が、どこまでも広がっていた。