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第165話 スキンシップのお仕置き

 秋葉原での壮絶な戦いから二日後の朝。地下に広がるトレーニングルームは、冷たく響く金属の壁と、汗と気合の匂いが漂う空間だった。そこには、ブレイブエイトのメンバーと、かつて共闘したヒカリ、椿、りんちゃむが集まる予定だった。合同トレーニングは、戦士たちの絆と力をさらに高めるための重要な一歩であり、必ず参加しなければならないのだ。

 部屋には既に日和、アイリン、マツリ、トワ、エイリーン、カルア、椿、りんちゃむ、そしてヤツフサが集まり、準備運動の音や軽い笑い声が響いていた。だが、肝心のヒカリは「仲間を連れてくる」とのことで遅れる予定だ。

 部屋の中央では、ダンベルやトレーニングマシンが規則正しく並び、壁には戦いの傷跡のような無数の凹みが刻まれている。そこかしこに戦士たちの熱気が渦巻き、まるでこれから始まるトレーニングが、ただの鍛錬ではなく新たな戦いの前哨戦であるかのような緊張感が漂っていた。


「あれ? 零夜君は? 倫子さんやエヴァちゃん、ベルさん、メイルさんもいないけど……」


 椿の声が、トレーニングルームのざわめきを切り裂いた。彼女の鋭い観察力は、いつも通りのメンバーの不在にすぐさま気付いたのだ。椿の大きな瞳には好奇心と少しの心配が宿り、長い髪がトレーニング用のポニーテールで揺れている。彼女の質問に、日和は一瞬目を逸らし、困ったような苦笑いを浮かべた。


「ああ……零夜君なら、倫子さんとエヴァに連れられていたわ。どうやら数日前にティアマトを仲間にした事で、二人の嫉妬が高まったみたい……」


 日和の声には、どこか同情と諦めが混じっていた。彼女の背後では、マツリが軽く肩をすくめ、補足するように口を開く。


「因みにメイルとベルは自らも参加しに向かったそうだ」

「く、苦労しているのね……」


 話を聞いた椿は、思わず苦笑いで返すしかなかった。

 零夜の行動は、まさに因果応報。モンスター娘を次々と仲間に引き入れる彼のスタイルは、仲間内での波乱を呼ぶのも無理はない。だが、同時に彼の純粋な情熱に同情する気持ちも湧いてくる。椿は軽く首を振って、零夜の苦境を想像しながら小さく笑った。

 その時、りんちゃむがコソコソと動き出した。彼女の小さな体は、まるで忍者のように静かに、しかし明らかに怪しい雰囲気を漂わせながら出口へと向かう。それを見逃さなかったトワが、素早く彼女の前に立ちはだかり、両肩をガシッと掴んだ。トワの鋭い眼光は、まるで獲物を捕らえた鷹のようだ。


「まさかとは思うけど、盗撮しに向かうんじゃないでしょうね?」

「いや、面白そうだから……」


 りんちゃむは横を向き、冷や汗を浮かべながら口笛を吹く。そのわざとらしい仕草に、トワの声がさらに厳しく響く。


「しなくて良いからね! 駄目だから!」


 トワのツッコミがトレーニングルームにこだまし、エイリーンやアイリンたちは盛大にため息をついた。

 りんちゃむの行動は、いつも一線を超える。彼女の好奇心は時に暴走し、周囲を呆れさせるのだ。カルアは両手で口を押さえながら、クスクスと笑っていて、ヤツフサは静かに首を振って遠くを見つめた。トレーニングルームは一瞬、りんちゃむを中心に軽い笑いと呆れの空気に包まれた。



 零夜の部屋は、トレーニングルームとは対照的に、柔らかな日差しがカーテンの隙間から差し込む穏やかな空間だった。だが、その静けさはすぐに破られる。

 部屋の中央では、倫子が零夜をぎゅっと抱き寄せ、まるで大切な宝物を抱くかのように全身をくっつけていた。彼女の長い髪が零夜の肩に触れ、甘い香水の香りが部屋に漂う。倫子の顔には、至福の時間が刻まれているかのような満足げな笑みが浮かんでいた。


「ん……気持ちいい」


 倫子の声は、まるで子猫が喉を鳴らすような甘さを含んでいた。彼女にとって、零夜とのスキンシップは戦いの疲れを癒す最高のひとときだ。

 だが、零夜は違った。彼の顔は真っ赤に染まり、恥ずかしさで今にも倒れそうだった。心臓の鼓動が部屋に響くほど大きく、まるで逃げ場のない獲物のように縮こまっている。


「ん! ふぅーっ……気持ちよかった」


 倫子は最後にムギュッと強く抱き締めると、満足そうな笑みを浮かべて零夜から離れた。彼女の目はキラキラと輝き、まるでこれから始まるトレーニングへのやる気がみなぎっているようだった。倫子が一歩下がると、すかさずエヴァが前に進み出る。


「次は私」


 エヴァの声は落ち着いているが、その瞳には熱い情熱が宿っていた。彼女は零夜を力強く抱き締め、まるで彼を自分の一部にするかのように密着する。そして、彼女の大胆な行動はさらにエスカレート。零夜の手を自らのジーンズの尻ポケットに滑り込ませ、右手で彼の頭を優しく撫で始めた。エヴァの尻尾がブンブンと勢いよく振れる音が、彼女の喜びを如実に物語っていた。


「ん……お尻が気持ちいい……あん!」


 エヴァの身体がビクンと反応し、彼女の頬には満足げな笑みが広がる。愛する人に触れられる喜びは、彼女の心を満たしていた。零夜はさらに赤くなり、言葉を失ったまま立ち尽くす。


「後は二人だけよ」

「じゃあ、私たちは二人同時に行いますので」

「その方が効率的に良いからね」


 メイルとベルが同時に声を上げ、零夜を挟み込むように抱きついた。メイルは前から、ベルは後ろから。まるでサンドイッチのように零夜を包み込み、彼女たちは楽しげにあやし始めた。大の大人を「いい子いい子」する姿は、どこか異様な光景だが、彼女たちにとってはこれが最高の楽しみだった。


「良い子良い子」

「よしよし、坊ちゃま」

「止めろ……恥ずかしいから勘弁してくれ……!」


 零夜の叫びは、部屋の壁に虚しく響く。メイルは零夜を「坊ちゃま」と呼び、まるで忠実なメイドのように彼を慕う。一方、ベルはスキンシップそのものが趣味で、彼女の笑顔は純粋な喜びに満ちていた。零夜の抵抗もむなしく、二人は聞く耳を持たない。


「最後は四人で押しくらまんじゅうしましょう!」

「「「さんせーい!」」」

「人の話を聞けー! 止めろー!」


 倫子、エヴァ、メイル、ベルが一斉に零夜に飛びつき、四人で押し合いながら押しくらまんじゅうが始まった。部屋は一気に騒がしくなり、彼女たちの楽しげな歌声が響く。


「「「押しくらまんじゅう、押されて泣くな。押しくらまんじゅう、押されて泣くな」」」

(さ、最悪だ……)


 零夜は項垂れ、顔を真っ赤にしながら耐えるしかなかった。普通の人間なら羨ましいと思うかもしれないが、彼にとってはまさに地獄。彼女たちの情熱と愛情が、零夜を容赦なく押し潰していた。



「スッキリした! さっ、早くトレーニングに向かいましょう!」

「「「はーい!」」」


 数分後、倫子たちは満足げな笑顔で部屋を後にした。彼女たちの足取りは軽く、まるでエネルギーを満タンにした戦士のようだ。一方、零夜は床に仰向けに倒れ、ヒクヒクと身体を震わせていた。あれだけのスキンシップを受けたのだから、当然の結果かもしれない。


「うう……ここまでやられるとは……まあ、あれは俺が原因なのも無理ないよな……」


 零夜は重い身体をゆっくりと起こしながら、秋葉原での戦いの後の出来事を思い返していた。あの夜、倫子からの突然の提案に彼は驚愕したのだ。


 ※


 秋葉原での戦いの後の夜、零夜たちは屋敷に帰還し、戦いの疲れを癒していた。そこに倫子が突如、爆弾のような提案を投げかけた。


「ええっ!? スキンシップ!?」


 零夜の声は、驚きで裏返っていた。日和や他の仲間たちも、口を押さえて目を丸くする。倫子の提案はあまりにも突拍子もないものだった。


「そう。零夜君がモンスター娘をいつも仲間にしようとしているからね。それで一日一回のスキンシップを行うから」

「元はと言えば零夜のせいだからね。覚悟しておきなさい!」


 倫子とエヴァのジト目が、零夜を射抜く。彼は項垂れ、渋々頷くしかなかった。モンスター娘を次々と仲間にすることで、彼女たちの嫉妬が爆発するのは必然だった。下手をすれば、倫子やエヴァが暴走し、敵味方問わず攻撃を仕掛けるかもしれない。この提案は、彼女たちの怒りを抑えるための妥協案だったのだ。


「分かりました……やります……」

「よし。今日は皆で押しくらまんじゅうをするから。全員集まって!」

「おい! まさか!?」


 エヴァの合図で、日和たちも一斉に集まり、零夜を取り囲んだ。彼女たちの目は楽しげに輝き、まるで祭りの準備をする子供のようだ。そして、彼女たちは一斉に零夜に飛びつき、押しくらまんじゅうが始まった。


「せーの!」

「「「押しくらまんじゅう、押されて泣くな。押しくらまんじゅう、押されて泣くな」」」

「助けてくれー!」


 零夜の悲鳴が部屋に響き渡る。ヤツフサは遠くからその光景を見やり、呆れたようにため息をついた。


(災難だな……)


 ※


「あの時は俺が原因だが、これ以上のスキンシップは勘弁してくれよな……いつつ……」


 零夜が腰を押さえながら立ち上がると、インターホンのチャイムが鳴り響いた。おそらくヒカリとその仲間だろう。


「そう言えば……ヒカリさんは仲間を連れてくると言ったみたいだな……早く回復して向かうとするか……」


 零夜は自動回復術を唱え、身体の痛みを癒していく。回復が完了すると同時に、彼は急いで玄関へと駆け出した。トレーニングルームでの新たな戦いが、彼を待っているのだ。

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