零夜は静かな足取りで玄関前に移動し、重厚な扉をゆっくりと開けた。そこに立っていたのは、ヒカリだけではなかった。彼女の背後には、三人の女性が揃って姿を現している。彼女たちはヒカリの仲間たちだ。
「ヒカリさん、待ってました。彼女たちが新しい仲間?」
零夜の問いに対し、ヒカリは軽やかに頷く。そのまま彼女の隣に立つ三人の女性を指差した。
「うん、この三人よ」
ヒカリの紹介を合図に、三人は順に自己紹介を始めた。まず最初に口を開いたのは、黒のロングストレートヘアが印象的な女性だ。
「初めまして。元保育士の霧原碧です」
霧原碧は穏やかな声でそう名乗り、微笑みを見せた。
彼女は数日前まで保育士として働いていたが、突然の解雇で無職となり、今はバイトで生計を立てている。白いTシャツにジーンズ、さらにはエプロンという、まるで保育士のユニフォームのような装いは、彼女の過去を物語っていた。
次に、茶色いポニーテールが揺れる活発そうな女性が手を挙げた。
「女子高生の黒川舞香です! 宜しくお願い致します!」
黒川舞香は明るい声で、元気な笑顔で自己紹介した。彼女の服装はストライプのTシャツにオーバーオールというカジュアルなスタイルで、額には星形のマークがチャームポイントとして輝いている。
最後に、鋭い目つきの黒猫族の女性が口を開いた。
「サヤカだ。ハルヴァス出身だけど、事情があって地球に連れてこられた。今はヒカリの家に居候してる」
サヤカの声は低く、どこか野性的な響きを帯びていた。彼女はかつて悪人に囚われていた過去を持ちながらも、自由を勝ち取った強者だ。袖なしの黒いへそ出しチャイナ服に、片足が大胆に露出した黒いジーンズという、ワイルドで個性的な装いが彼女の雰囲気を際立たせていた。
三人の女性たちの自己紹介を聞いた零夜は、落ち着いた口調で応じていく。
「俺は東零夜。ブレイブエイトのリーダーを務めています。仲間たちは今、地下のトレーニングルームにいます。では、どうぞ」
零夜は一礼をしたと同時に、一行を屋敷内に招き入れる。彼は先導しながら、地下室へと続く廊下を進んだ。サヤカたちはその豪奢な屋敷の内装に目を奪われ、興味津々の表情を浮かべていた。初めて足を踏み入れるこの場所は、まるで別世界のようだった。
「こんな家に入るのは初めてだな……」
「ほんと、すごいとしか言えないよね……」
「ちょっと羨ましいかも……」
サヤカが呟くと、碧が感嘆の声を漏らしてしまう。舞香も目を輝かせながら付け加えていて、目を輝かせながら興味を示していた。
彼女たちの視線は、きらびやかなシャンデリアや、荘厳な大階段、壁に飾られた高価そうな絵画に次々と吸い寄せられていく。屋敷の豪華さは、まるでおとぎ話に出てくるような大富豪の住まいそのものだった。
ヒカリはサヤカたちのそんな様子を見て、苦笑いを浮かべていた。初めて屋敷の中に入る人にとっては、こうなるのも無理はない。
「まあ、初めてだとそうなるよね」
「そのようですね……ところで、ヒカリさん。衣装、変わってますね?」
零夜はふと、ヒカリの装いがいつもと異なることに気づいた。彼女は赤いビキニブラにサスペンダー付きのカーゴパンツ、頭には黒い猫耳カチューシャを着けている。まるでステージ衣装のような大胆なスタイルだった。
「ああ、これは『逃走ロワイアル』の時の衣装なの。私たち全員、これ気に入ってるから」
「逃走ロワイアル……確か四月に復活した番組ですよね。デスゲーム化したと聞きましたが……」
ヒカリの説明を聞いた零夜は、少し眉を上げながら真剣な表情をしていた。まさかあの打ち切りになった番組が復活するとは、想定外としか言えないからだ。
逃走ロワイアルは、大晦日の大会での事故により一度は打ち切りとなった番組だった。しかし、何者かの手によって復活し、今度は命を賭けたデスゲームへと変貌していた。ヒカリ、サヤカ、碧、舞香の四人はその過酷なゲームを生き延びたが、多くの参加者が命を落とす悲惨な結果に終わっていた。デスゲームという性質上、当然の結末とも言えるが、黒幕を倒さなければこの悪夢は終わらない。
「いずれにせよ、そちらでも戦いが続いているんですね。お互い、事件を解決しないと大変なことになります」
「そうね。まずはトレーニングルームへ向かいましょう!」
零夜の言葉にヒカリは力強く頷き、彼女の合図で地下室へと続く階段を下り始めた。それぞれの敵を倒し、平和な日常を取り戻すためにも。彼らは決意を新たにしながら進んでいたのだ。
※
地下室に到着すると、そこには「トレーニングルーム」と刻まれた巨大な扉が待ち構えていた。重厚な鉄の扉は、まるで要塞の門のように威圧感を放っている。ここは零夜とその仲間たちが日々鍛錬を重ね、最強の力を維持する場所だった。
「この先がトレーニングルーム?」
「その通り。じゃ、開けるぞ」
舞香が好奇心に満ちた声で尋ねると、零夜は静かに頷きながら応える。そのまま彼が扉に触れると、機械音とともに扉がスライドし、広大な空間が現れた。
そこには無数のトレーニング機器が整然と並び、壁には武器や防具が厳かに飾られている。部屋の中央には、倫子、日和、アイリン、エヴァ、マツリ、トワ、エイリーン、ベル、カルア、メイル、ヤツフサ、りんちゃむ、椿が勢揃いしていた。
「ヒカリさん、遅刻ですよ!」
「ごめんね。仲間を連れてきたから」
椿が軽い口調でツッコミを入れると、ヒカリは苦笑いで応じた。そのまま彼女がサヤカたちを紹介しようとしたその瞬間、サヤカの視線がアイリンに固定された。彼女の眉がピクリと動き、驚きの声が上がった。
「あっ! お前、アイリン!?」
「ん? サヤカじゃない! アンタも来てたの!?」
二人は互いを指差し、驚愕の声を上げた。その突然のやり取りに、ヒカリや他の仲間たちは訝しげな視線を向けた。
「知り合いなの?」
ヒカリが尋ねると、サヤカは少し気まずそうに答える。何れにしても話す予定で、隠し事はできないと判断しているのだ。
「ああ……アイツとは同じ道場の出身だ。けど、因縁のライバルでもあるからな……」
「「「ええっ!?」」」
サヤカの衝撃的な告白に、アイリンを除く全員が目を丸くして驚愕した。サヤカとアイリンが因縁のライバルだなんて、この場にいる誰一人として予想していなかったのだ。
「ねえ、アイリン。サヤカとは修行時代からのライバルって聞いたけど、いつからそんな関係になったの?」
日和の質問に、アイリンは遠くを見つめるような目つきで過去を振り返り始める。サヤカと再会した以上、日和たちにもその時の事を話す必要があるだろう。
「ああ。あれは道場時代のことだったわね。その時からライバル関係になっていたから……」
アイリンの声はどこか重く、懐かしさと苦々しさが混ざった響きを帯びていた。そばにいた零夜たちも、興味深そうに身を乗り出し、アイリンの話に耳を傾け始めた。
アイリンとサヤカ。二人の過去の因縁が、今この場で明らかになろうとしていた。