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第168話 友でありライバルとして

「まさかそんな展開があったなんて……それ以来、因縁ができたってわけね……」


 アイリンの話を聞き終えた日和は、納得したように小さく頷いた。零夜たちも同じく静かに首を振って同意を示し、アイリンとサヤカの間に横たわる因縁に、誰もが深い理解を示していた。部屋には一瞬、重い空気が漂ったが、それはすぐに次の行動への決意に変わった。


「アイリンの言う通りだ。リベンジマッチをしたいのは山々だが、まずは逃走ロワイアルの黒幕、グレゴリウスを倒すのが先だ。奴を倒さないと、犠牲者が増えるからな」


 サヤカの声は低く、しかし力強く響いた。真剣な眼差しでそう告げると、彼女は因縁の敵であるグレゴリウスを優先する決意を固めた。アイリンとの個人的な決着は、自身の使命を果たした後でも遅くない――そう判断したのだ。

 グレゴリウスは逃走ロワイアルのプロデューサーであり、冷酷な黒幕。彼を倒さなければ、この過酷なゲームは終わりを迎えない。サヤカたちはその事実を胸に刻み、逃走ロワイアルを終わらせるために全力を尽くす覚悟だった。


「アンタならそう言うと思ったわ。私も因縁の敵を倒さなきゃいけないしね。せっかくだから、手合わせしてみない? 新しい格闘技、プロレスで!」


 アイリンはサヤカの言葉に力強く頷くと、近くに設置されたリングを指差して提案した。彼女は零夜たちと共にプロレスを学び、数々の戦いを乗り越えてきた。ブレイブエイトのメンバーだけでなく、りんちゃむ、ヒカリ、椿も護身のためにプロレス技を習得していた。その経験が、アイリンの自信に満ちた笑みに表れている。


「プロレスか……私も習ったことがあるけどな」

「えっ? 習ってるの?」


 サヤカの意外な言葉に、アイリンだけでなく碧や舞香も驚きの声を上げた。サヤカがプロレスを学んでいるとは、誰も予想していなかった。彼女の普段の落ち着いた物腰からは、リングでの激しい戦いが想像しにくい。だが、サヤカの口元には僅かな笑みが浮かんでいた。


「まあ、見せてやるよ」


 サヤカは軽やかにコーナーポストに駆け上がった。ヒカリたちは慌ててリングの外に移動し、彼女の動きを見守る。次の瞬間、サヤカは鋭い眼光と共に空中に飛び出し、横に回転しながらヒカリたちに向かって突進した。


「きゃっ!」

「いたっ!」

「あうっ!」


 ヒカリたちはサヤカの攻撃を受けて次々と倒れ込んだ。リングの外に響く悲鳴と衝撃音。だが、アイリンはその光景を見て納得したように頷き、すぐにサヤカに駆け寄った。


「今の技、トルニージョね」

「トルニージョ?」

「何それ?」


 アイリンの言葉に舞香が反応し、技の名前に首を傾げた。碧もまた、知らない技名に不思議そうな表情を浮かべる。


「プランチャ・スイシーダって技、知ってるでしょ? リング上から場外の相手に向かって、トップロープを越えて腹部から突っ込む技。トルニージョはその応用で、空中で横に回転しながら突っ込むのよ」

「そういうことだ。ちなみに、ミサイルキック、鎌固め、ムーンサルトプレスも得意だからな」


 アイリンとサヤカの説明を聞き、碧と舞香は感心したように真剣に頷いた。プロレスの技の奥深さに触れ、まるで新たな世界の扉を開いたような気分だった。二人の説明は、技のダイナミズムとその背後にある技術を鮮やかに浮かび上がらせ、聞く者の心を掴んだ。


「なら、私たちもプロレス技を習得しないと! この三ヶ月で強くなるには必須よね!」

「ええ、でも基礎練も欠かせませんね。何をすればいいのか気になりますし……」


 碧は燃えるような決意を口にし、プロレス技の習得に意気込んだ。舞香も同意するが、基礎練習の重要性を指摘する。強くなるためには何から始めればいいのか、二人ともまだ手探り状態だ。

 そんな様子を見ていたメイルが、優しい笑みを浮かべて口を開いた。


「それなら、ヒンズースクワットが効果的です。足腰を鍛えるのに最適ですから」

「「ヒンズースクワット?」」


 メイルの言葉に、碧と舞香が同時に首を傾げた。その時、ちょうど視線の先に、零夜たちが真剣にヒンズースクワットを行っている姿が映った。彼らはプロレスラーとしても活動しており、毎日三百回のヒンズースクワットは欠かせない基礎練習だ。ちなみに、彼らは五月にプロレスデビューを控えているという。


「これがヒンズースクワットか……でも、足に負担がかかりそうね……」

「つま先立ちで膝を前に出し、両手を横に置いたまましゃがみ、腕を前に振ってバランスを取りながら立ち上がる。これがそのやり方です」

「なるほど……私は参加します! やるからには強くならないと!」


 メイルが丁寧に説明すると、零夜たちが実演する姿がその言葉を裏付けた。碧は少し苦笑いを浮かべたが、舞香は迷わず練習に加わった。強くなる覚悟がある以上、この基礎練習は避けられないと腹を括ったのだろう。


「舞香に負けるわけにはいかない。私も参加する!」

「はい、一名様追加!」


 碧も決意を新たにヒンズースクワットに挑戦し始めた。無職の今だからこそ、強くなることで新たな未来を切り開こうという思いが、彼女の動きに力を与えていた。汗と努力が、彼女たちの新たな一歩を刻んでいく。


「二人が参加するなら、私たちも負けてられないわね!」

「そうだな、アイリン。手合わせしようぜ。お互い強くなるために!」

「ええ! やるなら本気で行くわよ!」


 ヒカリは碧と舞香の熱意に触発され、自身も負けじと気合いを入れた。サヤカもアイリンの提案に乗り、プロレスの手合わせを始めることに。二人はリングに向かい、準備を整える。その姿は、互いに高め合うライバルとしての絆を感じさせた。


「ヒカリさん、私と組手をお願いします」

「じゃあ、よろしくね」


 ヒカリはメイルと組手を始めることに決め、すぐに準備を整えた。ここからサヤカたちも特訓に加わり、特訓のレベルアップが本格的に幕を開けた。リングの上で、汗と笑顔が交錯する中、仲間たちは互いに切磋琢磨しながら成長していくのだった。


 ※


 その頃、Aブロック基地のアジトにある司令室では、部下の一人が基地の工事が完了したことを報告していた。報告を受けたベティとメディは、満足げに頷きながら互いに視線を交わす。


「ご苦労様です。後は配置に着いてください。彼らへの連絡は私たちでしますので」

「はっ!」


 メディの命令に、部下は一礼して司令室を後にした。部屋には、ベティとメディの二人だけが残る。静寂の中で、二人の間に決意の空気が漂う。


「いよいよ始まるわね。因縁の決戦が……」

「ええ。必ずアイリンだけでなく、八犬士たちも倒しましょう。すべてはタマズサ様の為に……」


 ベティとメディは、因縁の敵を必ず倒し、タマズサのために勝利を掴むことを誓った。Aブロック基地での戦いは、いよいよ本格的に近づいていた。

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