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第169話 Aブロック基地からの果し状

  訓練から二日後のDBWプロレス道場。リング上で汗と闘志をぶつけ合った零夜は、常盤とのスパーリングを終え、息を整えながらリングを降りた。彼のプロレス技術はすでに完成の域に達しており、いつデビュー戦を迎えても万全の状態だ。


「やるじゃないか。六人タッグ王者の俺を追い詰めるなんて」  

「大した事無いですよ。しかし、デビュー戦のカード……まさかファンキーズと益村の四人とは……何故こうなったのか……」  


 常盤の賞賛に、零夜は苦笑いで応える。だが、デビュー戦のカードの内容には複雑な表情を浮かべるしかなかった。

 零夜は倫子、メイル、日和の三人と共に、ファンキーズと益村の四人と戦うことになっている。益村は零夜が倫子と付き合っているのを気に食わないので、国鱒社長に直訴してこのカードを組ませたのだ。だが、この組み合わせは一触即発の危険を孕んでおり、下手をすればノーコンテストに終わる可能性が高い。


「まあ、この場合はやるしかないが、俺たちもファンキーズに散々酷い目に遭っているからな。俺たちの分まで頑張ってくれ」  

「奴らの動きは完全に熟知していますので、やるからには倒さないとですね。奴らの好き勝手にさせない為にも!」  


 常盤のエールに、零夜は力強くガッツポーズで応えた。ファンキーズの横暴な振る舞いに怒りを燃やす彼は、この試合で必ず決着をつけると心に誓っている。自身も彼らの被害に遭っているので、その恨みを晴らそうとしているのだ。

 その時、道場の扉が勢いよく開き、日和、アイリン、エヴァ、マツリ、エイリーン、トワ、ベル、カルア、ヤツフサが慌ただしく入ってきた。彼女たちの顔には汗が光り、ただならぬ雰囲気が漂っている。  


「どうしたの、日和ちゃん?」  

「何かあったのですか?」  


 倫子とメイルが心配そうに声をかけ、彼女たちに近づく。明らかに尋常ではない様子に、零夜たちも視線を集中させた。  


「大変です! メリアさんから連絡が入りましたが、Aブロック基地の連中が私たちに果し状を送ってきました!」  

「「「果し状!?」」」  


 日和の予想外の報告に、零夜、倫子、メイルは一斉に声を上げながら、驚愕を隠せなかった。敵からの果し状はこれまで経験したことのない事態であり、まさかの展開と言えるだろう。


「その内容はどう書いてあるんだ?」  


 零夜が冷静に尋ねると、アイリンが果し状を手に、読み上げる。誰もがその内容に、興味津々で聞こうとしているのだ。


「その内容はこう書いているわ。『八犬士たちへ。よくも私たちの仲間を殺してくれたわね。今度は私たちの戦いとなるけど、あなたたちを完膚なきまでに叩きのめすわ。アイリンとの因縁を終わらせるだけでなく、昇進して新たな道を進む為にも……』と」  


 アイリンの声が道場に響き、零夜たちは納得の表情を浮かべる。

 果し状の内容から察するに、ベティとメディはアイリンに強い執着を抱いているようだ。さらに、零夜たちへの警戒心も明らかで、この戦いは一筋縄ではいかないだろう。  


「奴らが動き出した以上、戦うしか方法はない。私たちも腹を括らないとね」  

「そうですね。それで、基地の場所と戦いの日時は?」  


 倫子の決意に満ちた言葉に、メイルも真剣に頷く。更に彼女は気になる事を質問した途端、トワが一歩前に出て、落ち着いた声で答える。


「テンガロン村跡地にあるわ。しかも、戦いについては二日後の土曜日よ」  

「二日後か。その日については大会は無いし、やるからには立ち向かうのみ! これ以上悪鬼の思い通りにはさせないからな!」  


 零夜は拳を打ち鳴らし、闘志を燃やした。彼の信念はどの様な事があっても揺るがない。

 零夜は悪鬼とタマズサの野望を打ち砕くため、自らが先頭に立って戦う覚悟だった。トワたちもその言葉に力強く頷き、最後まで戦う覚悟だ。

 その時、国鱒社長がゆっくりと近づいてきた。


「その日については試合はないし、俺たちも手伝うとしよう」  

「国鱒社長!」  


 突然の申し出に、零夜たちは驚きを隠せず社長の方を振り返る。プロレスラーたちが悪鬼との戦いに加わるなど、誰も予想していなかった展開だ。  


「俺たちはお前たちの活躍によって、団体興行を再開する事ができた。今度は俺たちも手伝うのみだ」

「零夜たちの活躍は勇気をもらっているからな。だから俺たちも力になる」  


 常磐と原口の言葉に、他のレスラーたちも「ウンウン」と頷き、賛同の意を示す。彼らはかつて団体興行が中止となり、意気消沈していた時期があった。だが、零夜たちの活躍を配信で目の当たりにし、再び前を向いて興行再開に挑んだのだ。零夜たちの存在がなければ、今の彼らはここにいなかっただろう。  


「皆さん、ありがとうございます。けど、大勢を連れて行くのは難しさを感じますね……人数的にも多く行くと、団体に影響が走りますし……」  


 零夜は感謝の意を込めて一礼するが、複雑な表情で悩む。プロレスラーたちの参戦は心強いが、大人数で動けば団体に負担がかかる。悪鬼との戦いは簡単ではない。全員が負傷すれば、大会中止の危機すらある。  


「そうなると思って、今回のメンバーも決めておいた。俺、栗原さん、川本の三人だ」  


 国鱒社長はそう言い、栗原と川本を伴って前に出た。二人はすでに戦う覚悟を固め、強い意志を瞳に宿している。

 栗原清彦くりはらきよひこは元力士で、四股名は栗の山くりのやま。相撲の技術に加え、ルチャ・リブレも得意とする実力者だ。戦力としては申し分ない。

 川本達郎かわもとたつろうはダンスを得意とするバラエティ系レスラー。必殺技は手刀、一発逆転首固めなど、多彩な技で観客を魅了する。零夜は彼を兄貴と慕っているが、黒田にはいつも叩かれている愛すべき存在だ。  


「分かりました。では、二日後の土曜日、宜しくお願い致します!」  


 零夜が代表して頭を下げると、国鱒は彼の肩を叩き、穏やかに微笑んだ。これで戦いのメンバーが確定したその時、サヤカが単身で道場に現れた。その様子だとヒカリたちは、別の仕事で来れないのだろう。


「サヤカ! あなたもここに来たの?」


 アイリンが驚きの声を上げると、サヤカは力強く答える。その瞳に偽りはなく、まっすぐな目をしているのだ。


「ああ。アンタたちの姿を見て、私も参戦すると決意したからな。ヒカリはタレント活動、碧はアルバイト、舞香は学園の手伝いで、その日は来れないけど」

「なるほどね。なら、足手まといはしないでよ!」

「それはこっちのセリフだよ!」


 サヤカの決意を聞いたアイリンは納得の表情をした後、彼女に対して忠告する。それにサヤカもそっくりと返し、二人のやり取りに微笑むのも無理なかった。


「これでメンバーは十分だな。Aブロック基地は今までよりは大違い。その事を念に入れて置くように!」  

「「「おう!」」」


 ヤツフサからの忠告に対し、零夜たちは一斉に強く応える。ここまで来た以上は、一歩も引かないだろう。

 こうして、Aブロック基地での戦いの幕が切って落とされた。零夜たちの闘志は燃え上がり、悪鬼との決戦に向けて、道場に熱い空気が満ちていた。  

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