訓練から二日後のDBWプロレス道場。リング上で汗と闘志をぶつけ合った零夜は、常盤とのスパーリングを終え、息を整えながらリングを降りた。彼のプロレス技術はすでに完成の域に達しており、いつデビュー戦を迎えても万全の状態だ。
「やるじゃないか。六人タッグ王者の俺を追い詰めるなんて」
「大した事無いですよ。しかし、デビュー戦のカード……まさかファンキーズと益村の四人とは……何故こうなったのか……」
常盤の賞賛に、零夜は苦笑いで応える。だが、デビュー戦のカードの内容には複雑な表情を浮かべるしかなかった。
零夜は倫子、メイル、日和の三人と共に、ファンキーズと益村の四人と戦うことになっている。益村は零夜が倫子と付き合っているのを気に食わないので、国鱒社長に直訴してこのカードを組ませたのだ。だが、この組み合わせは一触即発の危険を孕んでおり、下手をすればノーコンテストに終わる可能性が高い。
「まあ、この場合はやるしかないが、俺たちもファンキーズに散々酷い目に遭っているからな。俺たちの分まで頑張ってくれ」
「奴らの動きは完全に熟知していますので、やるからには倒さないとですね。奴らの好き勝手にさせない為にも!」
常盤のエールに、零夜は力強くガッツポーズで応えた。ファンキーズの横暴な振る舞いに怒りを燃やす彼は、この試合で必ず決着をつけると心に誓っている。自身も彼らの被害に遭っているので、その恨みを晴らそうとしているのだ。
その時、道場の扉が勢いよく開き、日和、アイリン、エヴァ、マツリ、エイリーン、トワ、ベル、カルア、ヤツフサが慌ただしく入ってきた。彼女たちの顔には汗が光り、ただならぬ雰囲気が漂っている。
「どうしたの、日和ちゃん?」
「何かあったのですか?」
倫子とメイルが心配そうに声をかけ、彼女たちに近づく。明らかに尋常ではない様子に、零夜たちも視線を集中させた。
「大変です! メリアさんから連絡が入りましたが、Aブロック基地の連中が私たちに果し状を送ってきました!」
「「「果し状!?」」」
日和の予想外の報告に、零夜、倫子、メイルは一斉に声を上げながら、驚愕を隠せなかった。敵からの果し状はこれまで経験したことのない事態であり、まさかの展開と言えるだろう。
「その内容はどう書いてあるんだ?」
零夜が冷静に尋ねると、アイリンが果し状を手に、読み上げる。誰もがその内容に、興味津々で聞こうとしているのだ。
「その内容はこう書いているわ。『八犬士たちへ。よくも私たちの仲間を殺してくれたわね。今度は私たちの戦いとなるけど、あなたたちを完膚なきまでに叩きのめすわ。アイリンとの因縁を終わらせるだけでなく、昇進して新たな道を進む為にも……』と」
アイリンの声が道場に響き、零夜たちは納得の表情を浮かべる。
果し状の内容から察するに、ベティとメディはアイリンに強い執着を抱いているようだ。さらに、零夜たちへの警戒心も明らかで、この戦いは一筋縄ではいかないだろう。
「奴らが動き出した以上、戦うしか方法はない。私たちも腹を括らないとね」
「そうですね。それで、基地の場所と戦いの日時は?」
倫子の決意に満ちた言葉に、メイルも真剣に頷く。更に彼女は気になる事を質問した途端、トワが一歩前に出て、落ち着いた声で答える。
「テンガロン村跡地にあるわ。しかも、戦いについては二日後の土曜日よ」
「二日後か。その日については大会は無いし、やるからには立ち向かうのみ! これ以上悪鬼の思い通りにはさせないからな!」
零夜は拳を打ち鳴らし、闘志を燃やした。彼の信念はどの様な事があっても揺るがない。
零夜は悪鬼とタマズサの野望を打ち砕くため、自らが先頭に立って戦う覚悟だった。トワたちもその言葉に力強く頷き、最後まで戦う覚悟だ。
その時、国鱒社長がゆっくりと近づいてきた。
「その日については試合はないし、俺たちも手伝うとしよう」
「国鱒社長!」
突然の申し出に、零夜たちは驚きを隠せず社長の方を振り返る。プロレスラーたちが悪鬼との戦いに加わるなど、誰も予想していなかった展開だ。
「俺たちはお前たちの活躍によって、団体興行を再開する事ができた。今度は俺たちも手伝うのみだ」
「零夜たちの活躍は勇気をもらっているからな。だから俺たちも力になる」
常磐と原口の言葉に、他のレスラーたちも「ウンウン」と頷き、賛同の意を示す。彼らはかつて団体興行が中止となり、意気消沈していた時期があった。だが、零夜たちの活躍を配信で目の当たりにし、再び前を向いて興行再開に挑んだのだ。零夜たちの存在がなければ、今の彼らはここにいなかっただろう。
「皆さん、ありがとうございます。けど、大勢を連れて行くのは難しさを感じますね……人数的にも多く行くと、団体に影響が走りますし……」
零夜は感謝の意を込めて一礼するが、複雑な表情で悩む。プロレスラーたちの参戦は心強いが、大人数で動けば団体に負担がかかる。悪鬼との戦いは簡単ではない。全員が負傷すれば、大会中止の危機すらある。
「そうなると思って、今回のメンバーも決めておいた。俺、栗原さん、川本の三人だ」
国鱒社長はそう言い、栗原と川本を伴って前に出た。二人はすでに戦う覚悟を固め、強い意志を瞳に宿している。
「分かりました。では、二日後の土曜日、宜しくお願い致します!」
零夜が代表して頭を下げると、国鱒は彼の肩を叩き、穏やかに微笑んだ。これで戦いのメンバーが確定したその時、サヤカが単身で道場に現れた。その様子だとヒカリたちは、別の仕事で来れないのだろう。
「サヤカ! あなたもここに来たの?」
アイリンが驚きの声を上げると、サヤカは力強く答える。その瞳に偽りはなく、まっすぐな目をしているのだ。
「ああ。アンタたちの姿を見て、私も参戦すると決意したからな。ヒカリはタレント活動、碧はアルバイト、舞香は学園の手伝いで、その日は来れないけど」
「なるほどね。なら、足手まといはしないでよ!」
「それはこっちのセリフだよ!」
サヤカの決意を聞いたアイリンは納得の表情をした後、彼女に対して忠告する。それにサヤカもそっくりと返し、二人のやり取りに微笑むのも無理なかった。
「これでメンバーは十分だな。Aブロック基地は今までよりは大違い。その事を念に入れて置くように!」
「「「おう!」」」
ヤツフサからの忠告に対し、零夜たちは一斉に強く応える。ここまで来た以上は、一歩も引かないだろう。
こうして、Aブロック基地での戦いの幕が切って落とされた。零夜たちの闘志は燃え上がり、悪鬼との決戦に向けて、道場に熱い空気が満ちていた。