悪鬼のコロシアムの中央のリングに、一人の司会者が姿を現す。ゴブリンだが、黒いサングラスをかけ、威厳を漂わせている。
「さあ、四天王決定戦の始まりだ! 現在の四天王はスカーレット様、マルコム様、ガルドン様となっている! この大会で最後の一人が決まるぞ!」
ゴブリンの宣言に、観客席は熱狂の渦に包まれる。血と硝煙の匂いが漂うコロシアムで、誰もがこの壮絶な戦いを待ちわび、興奮を抑えきれずにいた。
「まずはリングアナのゴッジが、この試合について説明しよう。まずはこの試合はアルティメットデスマッチ! 基本的ルールはハードコアの電流爆破となっているが、この試合は蛍光灯、電流爆破バット、電流爆破ボード、爆破ミサイル、その他の凶器も大量にもある! しかし、蛍光灯にも爆薬が仕掛けられている為、かなりダメージが大きいので注意だ! 因みに火薬の量は……いつもの5倍! 野郎共、準備はいいか!?」
「「「イェーッ!!」」」
ゴッジの煽りに、観客は拳を突き上げ、獣のような咆哮で応える。命を賭けたこの狂気の試合、その危険さが観客の血をたぎらせる。一歩間違えれば即死。それがこの戦いの本質だ。
「ありがとな! さあ、これより試合の始まりだ!」
ゴッジの合図と同時に轟音が響き、コロシアムが揺れる。西側のブルーゲートが雷鳴のような音を立てて開き、青コーナーのスグマが姿を現した。
スグマは暴走族「ハイバード」のリーダー。緑の短髪、裸の上半身にさらしを巻き、暴走族風のズボンを履いた不良の化身。悪鬼の頂点を目指し、仲間と共に血の戦場を駆け抜けてきた男だ。
「スグマ! 頼んだぞ!」
「大将ならやれると信じているからな!」
「四天王昇格してくれー!」
部下たちの声援に、スグマは不敵な笑みを浮かべて応える。四天王の座を必ず掴むと決意し、リングロープを軽やかに飛び越え、華麗にリングインした。
「青コーナー、ハイバードの特攻リーダー。スグマ!」
歓声がコロシアムを揺らし、スグマは拳を高く掲げる。セコンドには部下のハクト、ロイド、ジェシーが控える。
音楽が切り替わり、反対側のレッドゲートが火花を散らしながら開く。そこから現れたのは、金髪の男テツジと、派手なギャルのミカポンだ。
「テツジとミカポンだ! 相変わらずお熱いな!」
「畜生! 俺だって彼女欲しいよ!」
「ブレイブエイトに行って奪えばいいじゃないか!」
「いや、殺されるから嫌だよ!」
観客席からの野次が飛び交うが、テツジとミカポンは涼しい顔でリングに向かう。テツジは赤いトランクス。ミカポンは白のスポーツブラに赤いチェック柄のスカート、頭にはトリケラトプスの角が生えたモンスター娘だ。
「赤コーナー、最強のチャラ男。テツジ!」
テツジへの歓声が響き、ミカポンは投げキッスで観客を煽る。二人は数々の実績を誇り、人気は絶大だ。チャラい雰囲気を除けば、さらに支持を集めるだろう。
※
「何よ、調子に乗っちゃって!」
お台場の屋敷にあるリビングのテレビでは、試合の中継が画面上に流れている。アイリンは頬を膨らませ、画面を睨む。チャラ男が大嫌いな彼女にとって、テツジのような存在は許せない。エヴァたちも同じく不機嫌だ。
「だが、今回の試合……敗者に関しては即公開処刑となる。悪鬼は任務を失敗した者、反逆する者、弱者である者は容赦なく殺す。何れにしても生き残りを賭けた戦いとなるが、果たしてどうなるかだな」
ヤツフサの説明に、零夜たちは恐怖で息を呑んでしまう。敵の動向を知るため、どんな残酷な場面も見逃すわけにはいかないのだ。
※
コロシアムでは、テツジとスグマがリング中央で対峙し、それぞれのコーナーに移動。ミカポンはリングサイドでテツジのセコンドに就いている。
「では、始め!」
リングに入ってきたレフェリーの合図と同時に、ゴングが鳴り響く。その瞬間、テツジとスグマは一気に距離を詰め、火花散る殴り合いを繰り広げる。四天王の座を賭けた執念が、互いの拳に込められているのだ。
アルティメットデスマッチは拳での攻撃も許され、無法地帯そのもの。レフェリーへの攻撃やセコンドの乱入は禁止だが、それ以外は何でもありだ。
「実況はゴブゾウがお届けしよう! 最初から殴りっぱなしの展開だ!」
ゴブゾウの声が響く中、テツジのハイキックがスグマの顔面を掠め、スグマの鉄拳がテツジの腹を抉る。ガードを固めながらも、互いに一歩も引かぬ打撃戦が続く。だが、観客の目は物足りなさを訴えていた。
「凄い打撃戦だけど、これじゃあムエタイじゃないか!」
「全然プロレスじゃないし!」
ハクトとミカポンの野次に、テツジとスグマは一瞬動きを止め、鋭く睨み合う。このままではブーイング必至で、観客たちが呆れて帰るのも無理はない。
「ならばこれで!」
テツジが蛍光灯を手に取り、スグマの頭に振り下ろす。先手を取るべく、躊躇ない一撃だ。火薬が仕込まれた蛍光灯が炸裂し、爆音と共にリングが揺れる。
「させるか!」
スグマは電光石火の反応で回避し、テツジの胸に強烈なドロップキックを叩き込む。テツジはロープに設置された蛍光灯の束に激突し、爆発がコロシアムを震わせる。 破片が火花と共に飛び散り、観客は悲鳴と歓声を上げる。
「これはかなり痛い! 先制を仕掛けたのはスグマだ!」
「よし!」
ゴブゾウの実況に、ジェシーが拳を握る。スグマは倒れたテツジを肩に担ぎ、豪快に後ろに倒れ込んで背中をマットに叩きつけるサモアンドロップ。リングが地響きを立て、衝撃で観客席まで振動が伝わる。
「そのままフォールだ!」
「1、2!」
「があっ!」
テツジはカウント2でキックアウトし、即座に立ち上がってスグマを睨む。腹には蛍光灯の破片が刺さり、血が滲み、爆発の焦げ跡が残る。だが、その目はまだ闘志を失っていない。
「やってくれるじゃねえか……ここまで俺を追い詰めるとはな!」
テツジはコーナーポストに登り、観客の叫び声の中、跳躍してミサイルキックを放つ。だが、スグマは両足をキャッチし、そのまま抱え上げて背面からマットに叩きつけるパワーボム。リングが軋み、衝撃でコロシアム全体が揺れる。
「ボディスラム炸裂! ミサイルキックは効果なし!」
「悪いな。俺も負けられない理由があるんだよ」
スグマはテツジの首に腕を回し、リア・ネイキッド・チョークで絞め上げる。本気で仕留め、終わらせるつもりだ。テツジの顔が苦痛で歪み、血管が浮き上がる。
「こ、こいつ……!」
テツジは諦めず、死にものぐるいで足の甲を踏みつけてスグマを怯ませる。死への恐怖が彼を突き動かす。スグマが一瞬緩んだ隙に、テツジはチョークを振りほどき、ロープに吊るされている蛍光灯の一本を手に取った。
「お返しだ!」
テツジが蛍光灯をスグマの頭に叩きつけると、強烈な爆発がリングを揺らし、火薬の煙が立ち込める。スグマは仰向けに倒れ、頭から血が流れ、動けなくなってしまった。
「ここでテツジがお返しの一打! スグマは起き上がれない!」
「フォール!」
「1!」
「させるか!」
スグマは跳ね起き、テツジの顔面に鉄拳を叩き込む。瞬時の反応速度が生んだカウンターだ。
テツジは吹っ飛びながら態勢を立て直し、相手であるスグマの方を見る。髪は乱れ、頭に蛍光灯の破片が刺さり、血が滴る。だが、彼の目は依然として燃えている限り、ギブアップする理由にはいかないのだ。
「そう簡単にはいかないよな!」
テツジはニヤリと笑いながら、ロープに設置されている七本の蛍光灯を次々と手に取り、そのままガムテープを取り出して巻きつける。今の一撃では物足りないので、多くの蛍光灯で更にダメージを与えようとしているのだ。
「これで準備万端だ!」
蛍光灯の束をリングマットに置いた後、テツジはすかさずスグマを肩車で持ち上げようとする。しかし、彼も抵抗している為、中々持ち上げる事は不可能だ。
「こいつめ!」
「俺を甘く見るな!」
スグマはテツジをボディスラムの態勢で持ち上げるが、すかさず垂直になったと同時に、一気にノーザンライトボムで蛍光灯の山に頭を激突させた。
その瞬間、蛍光灯の山は割れてしまい、強烈な爆発で驚きの声が出た。火花と破片がリングを覆い、コロシアム全体が地獄のような光景に染まる。
「テツジ!」
ミカポンが叫んだ直後、爆発の煙が晴れてきた。そこには平然と立っているスグマと、頭はボロボロのアフロになり、倒れているテツジがいた。
「今がチャンスだ!」
ロイドの合図でスグマがテツジをフォールし、いつの間にか全身鎧のレフェリーがカウントに入る。
「1、2!」
「うあーっ!」
「なんとカウントはギリギリ!2.99だ!」
ゴブゾウの実況に場内から歓声が起こり、ボルテージも最高潮に。両者のコールが鳴り響く中、テツジはすぐに立ち上がる。彼はボロボロの姿だが、何度やられても立ち上がる姿に場内は驚きの声を隠せずにいたのだった。