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第43話 ピンチ!

 あれからずっと、ヘンリーは私を避け続けている。

 もちろん対応がそっけないのも継続中。その理由も未だに不明。


 さらには、結構精神的に辛いことがあって。


 シャーロットと仲良く過ごすヘンリーの姿を目撃することが多くなっていた。

 見せつけるようなその姿に、私はただ毎日耐え続けるしかない。



 居間でいつものように皆でご飯を食べていると、


「はい、あーんですわ。ヘンリー様」

「あーん」


 シャーロットがすくったご飯にかぶりつくヘンリー。


「美味しい、ありがとうシャーロット」

「うふふっ」


 新婚のように仲良くじゃれ合う二人。

 その様子を目の前で見せつけられた私の血管は、切れそうなほど浮き出ているに違いない。


「おい、おまえたち、いい加減にしろよ」


 龍がヘンリー達を睨みすごんだ。


「いいから」


 私が制すると、龍は納得していないように顔を歪め、口をつぐんだ。


 これが最近のやり取りの定番だ。


 幾度となく私の目の前でいちゃつくヘンリーとシャーロットに、龍の堪忍袋の緒が切れたのが昨日。

 それまでも幾度となく二人に向け、注意はしていた。

 それでもやめない二人に、龍がとうとうキレた。


 ヘンリーに殴りかかろうとした龍を私は止めた。

 そんなことしたからって、何も変わらない。ヘンリーの気持ちが変わることはないとわかっているから。


 なんでこんなことになってしまったのか、未だにわからないけれど。

 私はもう疲れていた。


 ヘンリーのことがわからなくて、彼のことをあきらめようとしている自分がいる。


 あんなに私のことを好いてくれていたヘンリーは、もういない。


 もう元には戻れない……なぜかそんな気がするのだ。


「龍、行こう」


 私は立ち上がると、居間を出ていく。


「お嬢、どこへ?」


 龍に問われ、ふと考える。

 とくに目的があったわけではない。ただ、ここから逃げたかった。


 ガラス越しに見える空は青く、太陽が燦燦さんさんと輝いている。

 外が恋しくなった私は、龍へ微笑みかけた。


「そうね、天気もいいし、散歩でもしようか」




 出かけようとすると、突然龍が慌てた。


「すみません、少し待っていてください。財布を忘れてきてしまいました」

「財布なんていいよ」

「いえ! 途中で何があるかわかりません。お嬢にご不便をかけることはできませんので。

 すぐに戻ります、ここにいてください」


 龍は急いで自室へと走っていく。


 律儀な奴だ。

 そうだ、少し驚かしてやろうかな。

 私が居なくなっていたら、きっと龍はあたふたするだろう。


 いたずら心が芽生えた私は、玄関を出て門の外へと踏みだした。

 見えないように、玄関から死角となっている門の扉の影に隠れる。


 私は龍を脅かすため、そのまま静かに待つことにした。




「あなた、如月流華さん?」


 突然見知らぬ男が私に話しかけてきた。


 何? こいつ。知らない顔だけど。


 私が怪しむように男を見つめる。

 すると突然男が私の後頭部を掴んだかと思うと、口元にハンカチを押し当ててきた。


「うぐっ、む、むぅ……」


 薬品の匂い。

 しまった……! と思ったがもう手遅れ。


 だんだん意識が薄れていき、私はそのまま眠りについた。




 意識を取り戻した私はゆっくりと目を開ける。


 ここはどこ?

 私、どれだけ眠っていたんだろう。


 辺りを見渡すと、び付いた機械や廃材が転がっているのが目に飛び込んできた。

 床は固いコンクリート。接触面は冷たく、体温を奪われていくように感じる。

 壁は古く、材質がめくれかかっている個所が多く目についた。

 天井も頑丈そうに見えるが、錆が目立つ。


 ……ここは、もう使われなくなった倉庫か何かだろうか。


 太陽の光が感じられ、その出所を探すため視線を動かす。

 天井の隙間から陽光が差し込んでいるのを見つけた。


 その光の加減から、まだ昼間だということが推測できる。


 手足を動かしてみると、すぐに痛みを感じた。

 見れば、手足はロープで巻かれ、近くの柱にしっかりと固定されているではないか。


「よう、目覚めたかい?」


 サングラスをかけた、いかにもヤクザ風な男が顔を覗き込んでくる。

 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべるその男に、激しい嫌悪感を抱いた。


 なんなの? こいつ?

 もしかして、いや、もしかしなくても、私……。


 どこかの組のやからに、拉致らちられた?


「あんたら何? どこの組?」


 私がガンを飛ばすと、男は嬉しそうに口笛を吹く。

 それに合わせ、他の連中も笑い声を上げた。


 気づけば、私を取り囲むように男たちが包囲していた。

 その数、ざっと見たところ十人くらい。


「おうおう、さっすが組長の孫娘ってか。強気だねえ。

 いいねえ、強い女は好きだぜぇ」


 男は私の顎をくいっと持ち上げた。

 私はその男めがけて、唾を吐く。


「私に触れるな」


 男の表情が一変する。


「おい、女だからって容赦しねえぞ」


 逆上した様子の男が、手を振り上げた。


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