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第46話 告白

「龍! 龍、気づいたの?」


 私は龍にしがみつき、至近距離から見つめた。


 瞳がゆっくりと開いていき、彼の瞳が私を捉える。

 力のないまぶたを何度かゆっくりと開閉させた後、龍は柔らかく微笑んだ。


「お嬢……」


 久しぶりに聞く龍の声は、かすれていた。


 感情を抑えることができず、私は瞳に涙をいっぱい溜めたまま龍におもいきり抱きついた。


「よかったあ、無事で……龍っ」


 力を込めぎゅっと抱きしめると、お互いの体は隙間なく密着する。

 すると、龍は激しく動揺し狼狽えはじめる。


「あ、あの、お嬢」

「龍、私、私……」


 溢れる想いを言葉に出しかけた、そのとき、


「うおっほん!」


 突然、祖父の咳払いが病室に響いた。


「っおじいちゃん!」


 少し離れた場所で居心地悪そうに佇む祖父は、あきれた表情をこちらに向けている。


 そういえば、おじいちゃんと一緒だったんだ。と私は今更ながら気づいた。

 すっかり存在を忘れていた。


 龍が目覚めたことが嬉しくて、脳内から他のことはどこかへ消え去った。


 気まずい視線を祖父へ送る。

 隣にいる龍も、どこか恥ずかしそうにたどたどしい視線を向けていた。


 祖父はゆっくりとした足取りで、私たちへ近づいてくる。


 そして目の前で立ち止まると、祖父は龍をまっすぐ見つめた。


「よく生きていてくれたな、龍。

 ありがとう、流華を守ってくれて」


 深く頭を下げる祖父を前に、龍が慌てふためく。


「やめてください! 当たり前のことをしたまでです。私はお嬢を守るためなら」


 と龍が言いかけたところで、私が横やりを入れる。


「いや、死んだらもう守れないじゃない! ……傍にいられないじゃん。

 これからもずっと傍で守ってくれるんでしょ? もう絶対危ないことしないでっ」


 私が龍の腕をぎゅっと掴み真剣な表情でそう告げると、龍は破顔はがんし、嬉しそうに頷いた。


「はい、もちろんです。私はずっとお嬢の傍にいますよ。

 ……ありがとうございます」


 私と龍が見つめ合う。

 すると、祖父が急に思いついたように声を出した。


「あー、わし、ちょっと先生と話があったんじゃ。

 流華、おまえはここで待っていなさい」


 祖父は意味深な笑みを私に向けると、病室から出ていった。


 何? あの変な笑顔は。

 私は不振に思い、祖父の遠ざかる背中を見つめていた。


 すると龍が話しかけてきた。


「お嬢、ご心配おかけして申し訳ありませんでした。

 でも、私は普通の人間より頑丈にできていますので、これくらいでは死にません」


 胸を張り豪語ごうごする龍に、私はあきれた表情を向ける。


「何言ってんの、そういう油断が命取りなんだから」


 怒った私は龍の背中を叩いた。

 それに反応し、大げさに痛がる龍を見つめながら私は笑った。


 こんな風にまたじゃれあえることが嬉しくて、目にまた涙が滲んできてしまう。


 龍が愛おしそうな表情と眼差しを私に向けてくる。 

 瞳が重なると、また鼓動がドキドキとうるさく鳴り始めた。


 どうしよう、なんだかすごく恥ずかしい。

 見つめられたくらいでなんて……重症だわ。


 私は気を紛らわせるため、先ほど気になったことを聞いてみることにした。


「あの……さ。こんな時になんだけど。

 龍って彼女とかいるの?」


 突然そんなことを聞かれ驚いたのか、龍は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。 

 私は恥ずかしくて龍の目を見ることができずにいた。


「いえ、私に恋人はおりません。お嬢が一番わかっているでしょう?

 四六時中あなたの傍にいて、どうやって作れると思いますか?」


 はっきりとそう答える龍にほっとしつつ、次の質問を投げかけてみる。


「そ、そうだよねっ。じゃ、じゃあ……好きな人とかは?」


 その質問を聞いた途端、龍の顔から笑顔が消え黙り込んでしまった。


 ん? 沈黙……いるってこと?


 不安になった私はそっと龍の顔を見た。

 真剣な眼差の龍と目が合う。


「お嬢は、ヘンリーですよね?」


 なぜか聞き返されてしまった。

 もしかして話を逸らされた?


 龍の真剣さに押され、私が答えるはめになる。


「う、ん。ヘンリーだと思ってたんだけどね……」


 なんだか言いにくいなあ、と声はだんだん弱まっていく。

 そんな私を龍は訝しげな表情で見つめてくる。


「思ってた?」

「うん……どうやら勘違いだったみたい。

 私の過去生の記憶や気持ちとごちゃごちゃになってて、わからなかったの。

 前世でヘンリーと私、恋人同士でさ。

 そのときの気持ちが流れ込んできて、今の自分の気持ちと勘違いしちゃってたみたい、なんだよね」


 言い終わるか終わらないくらいに、龍が食い気味に迫ってくる。


「それは……本当ですか? 自分の気持ちを誤魔化しているのでは?」


 龍の瞳が私を射抜く。

 まっすぐなその眼差しに、私の顔が熱くなるのを感じた。


 ヘンリーの態度が辛くて、気持ちを誤魔化そうとしているのではないかと心配しているのだ。

 まあ、普通そう思うよね。

 私も疑った。


 でも、違う。

 今ならはっきりとわかる。


 私は龍を見つめながら、かぶりを振った。


「そんなことない! だって、今は別の人を好きってわかったし」


 熱い気持ちを込めながら龍の目をまっすぐ見つめる。


「別の人? いったい、誰です?」


 龍が興味津々の様子で、目の前に迫ってくる。

 顔があまりにも近い距離にあって、私は恥ずかしくなって戸惑う。


「わ、わからない?」


 探るように尋ねると、龍は真面目な顔で頷いた。


「はい」


 もう、龍は鈍いなあ。って私も大概だけど。

 ええい、こうなったらもう言うしかない!


 私は思いきって口にする。


「龍が好き!」

「……へ?」


 龍はその場で固まり、目が点になった。


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