ヘンリーが消えたあと、私はシャーロットとアルバートを探した。
しかし、どこを探しても二人の姿は見当たらなかった。
きっとヘンリーと一緒に、元の世界へ帰っていったのだろう。
なんとも不思議な話だけれど、そうとしか思えなかった。
「みんな、帰っちゃった……」
その夜、縁側に座りながら月を見上げ、そっとつぶやく。
騒がしかった日々が嘘のように、家の中は静まり返っていた。
時折、まだヘンリーたちがいるような気がして、振り返ってしまうことがある。
それだけ、彼らはもう私の日常の一部だったんだ、と思い知らされる。
想いを
隣に座る龍が、慣れない手つきで私の肩をそっと抱き寄せた。
その温もりに包まれながら、私は幸せを噛みしめ、そっと目を
脳裏に、ヘンリーたちの顔が浮かんでいく。
「……きっと忘れない。ヘンリーたちは、私の心の中でずっと生き続けてる」
「そうですね」
龍は優しい笑みを浮かべ、私を見つめる。
その穏やかな表情を見ながら、自然と笑みがこぼれた。
龍は、病院から抜け出してきたあと、そのままこの家に居続けることを選んだ。
戻るよう言うが、龍は頑なに拒否し、私の傍にいると言い張った。
彼いわく、自分は頑丈で回復力も尋常ではないから大丈夫、だそうだ。
あとは、家で安静に過ごしていれば問題ないと、自分の意志を曲げなかった。
「そんなに、私と離れたくないの?」
冗談交じりに問うと、龍は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに頷いた。
キュン……胸が高鳴った。
何、その反応!
心の中で思わず突っ込んでしまう。
龍って、ギャップがすごい。
普段は冷静沈着で仕事のできるクールな男って感じなのに、私の前ではヘタレになったり、まるで乙女のような反応をする。
まあ、そこが可愛いんだけどね。
その後、誰かから電話がかかってきて、龍はしばらく叱られているようだったが、最終的にはうまく丸め込んだようだ。
電話口でスラスラと嘘を織り交ぜながら説き伏せる彼の姿に、思わず笑ってしまった。
龍って、私以外には弁が立つよね。
私の前だと、すぐしどろもどろになるくせに。
結局、あとでおじいちゃんにこっぴどく叱られていたけれど。
勝手に病院を抜け出したことを、祖父は相当心配していたのだろう。
帰ってくるなり、龍は大声で怒鳴られていた。
それだけ、彼のことを大切に思っている証拠だ。
祖父に叱られ、しょんぼりと肩を落とす龍。
その姿が、なんとも微笑ましかった。
龍を愛おしそうに見つめる。
月明かりに照らされた彼の横顔が、あまりにも格好良くて、思わず見惚れてしまう。
ふと、いたずら心が芽生え、意地悪なことを言いたくなった。
「それに、ヘンリーがいなかったら、龍への気持ちに気づけなかったかもしれないもんね」
悪戯っ子のような笑みを浮かべ、龍の反応を窺う。
「お嬢……本当にヘンリーより私のこと、好きなんですよね?」
自信なさげに問いかける龍が、なんだか可愛い。
もっと困らせてやりたい、という欲が出た。
「あ、信じてないの? ひどい!」
頬を膨らませると、龍は焦ったように否定する。
「ち、違います! 心配なんです!
お嬢が本当に私を好きだなんて……まだ夢みたいで。
気まぐれとか、また気持ちが変わるとか、そんなことになったらどうしようって……。
決して信じていないわけでは!」
龍の必死な姿に愛しさが募る。
私は衝動的に口づけをした。
「っ!」
龍の目が丸く見開かれ、戸惑いの視線が向けられる。
「これが答え。私が心から愛しているのは、龍、あなたよ」
満面の笑みを向けると、龍の顔がみるみる赤く染まっていくのがわかった。
「お嬢……あなたって人は……」
龍の大きな体が、そっと私を包み込む。
彼の温もりに、安心して身を委ねる。
「私は果報者です。お嬢がたとえ他の誰を好きでも、私は生涯あなたを愛し続けます。
……しかし、私を好きでいてくれるなら、もう二度とあなたのことを離しはしません。覚悟してください」
龍の腕に力が込められ、体がギュッと密着する。
心臓の音が大きくなっていき、もう、ドキドキが止まらない。
私は龍の背に手を回し、ギュッと抱きしめ返した。
「龍……大好き」
熱のこもった潤んだ瞳がぶつかり合う。
龍は嬉しそうに微笑むと、そっと私に口づけを落とした。