俺たちは何となく岩の上でのんびりしていた。池の真ん中にある、ドラゴン形態のシルシュが横たわっていたあのデカくて平らな岩だ。
すると、
「あのメイドさん、ドラゴンなの?」
とてとてと近づいて来たミラがそんなことを尋ねてきた。
あー、そういえば。ミラって心が読めるんだよな。本人が断言したことはないが、確定であるはず。
じゃあ別に小声で喋ってもしょうがないというか。ミラの「あのメイドさん、ドラゴンなの?」発言はみんなにも聞こえちゃっているというか。ミラから『正直に教えてくれるかどうか』を試されているというか……。
ま、もういいか。どうせシルシュも隠そうとはしないだろ。
「おう、そうらしいぞ? 気になるなら本人に聞いてみな。いや本竜か」
「アーク君!?」
あまりにあっさりと教えてしまったせいかシャルロットがアワアワしていた。
「ん。別にいい」
あっさりとした返事をするミラだった。さすがにドラゴンに尋ねるのは怖いのか。あるいは本当に興味がないのか。ただ単に俺を試したかっただけか……。
ミラはそのままシルシュの元へ行き、会話を始めた。何を喋っているのかは聞こえないが雰囲気は悪くなさそうだ。
ミラと入れ替わるようにしてメイス、そしてラックとエリザベス嬢がやってきた。
「……アーク様。あのメイドさん、ドラゴンなんですか……?」
訝しげな顔をするメイスだった。『本当にドラゴン?』と疑っているというよりかは、『何を言っているんですかあなた? 正気ですか?』という呆れの方が強そうな? ぐっ、常識人のメイスにそんな反応をされると傷つくぜ……。
ちなみにエリザベス嬢とラックは「ラック様、本当なのでしょうか……?」「にわかには信じがたいですが、アークならあり得るかもしれません」というやり取りをしていた。俺ならあり得るってどういうことだよ親友? いや実際こんなことになっているんだけどな?
まぁ二人は納得しているみたいだし、ここはメイスに対応するか。
「おう、今は化けているけどな。実際はデカいトカゲだぜ?」
「トカゲ……。いえしかし、いくらドラゴンが魔法を操る上位の魔物だからといって、人に化けると? それはさすがに考えにくいといいますか……」
この世界にも質量保存の法則とかあるのだろうか? いや、ただ単に変身魔法というものが非常識なだけか?
さてどう説明するかなーっと俺が悩んでいると、シルシュ(と、シルシュと喋っていたミラ)が近づいてきた。
『何じゃおぬしら、さっきから疑ってばかりで。この我が高貴なドラゴンであることなど見れば分かろうに』
やはり隠す気はなかったようだ。
いや見ても分からないって。ただの美人メイドにしか見えないって。
心の中で突っ込むと、シルシュは『むふん』とドヤ顔をしていた。もしかして……照れてるのか?
ははーん? もしやお前もおもしれー女だな?
『面白さしかないおぬしにとやかく言われたくはないわ』
どこをどう見ても一般人の俺に対して、ひどい物言いであった。
『……おもしれー男……』
なぜだ。
やれやれと肩をすくめるシルシュ。ドラゴンなのに妙に人間くさい動きだ。
『よかろう。そこまで疑うなら我の真の姿を見せてやろう――』
途端に発光し出すシルシュの身体。
「わぁ!?」
「何です!?」
「まぶしい」
「エリザベス様!」
「ラック様!」
いきなりの事態に大混乱となった皆に向けて、俺は叫んだ。
「距離を取れ! 踏みつぶされるぞ!」
叫んだはいいが、反応してくれたのはラックだけ。ここは実戦経験の差が出た感じか。
まぁ貴族令嬢に緊急避難をしろというのが無理な話だな。
ラックはエリザベス嬢を抱き抱えて池の中に飛び込んだ。なら俺はシャルロットたちだな。
だが。
シャルロット、メイス、ミラがどこにいるかは
「すまんが緊急事態だ!」
シャルロット、メイスを池に向かって放り投げ、まだまだ子供であるミラだけは抱き抱えて池に飛び込む。
直後、白いドラゴンは再びその姿を現したのだった。