シルシュは本当にドラゴンだった。
普通ならその話題で持ちきりになると思うのだが。
「アーク君はレディに対する扱いがなってない!」
「緊急事態だったのは理解しますが、もうちょっと……」
「あ、はい。すみません」
ぷんすかするシャルロットとメイスに平謝りをする俺だった。うん、まぁ、自分でもレディを池にぶん投げるのは『なし』だと思うので大人しくお説教を受けているのだ。
ちなみにそんなお説教を見学しているエリザベス嬢とラックはというと、
「みなさん、助けていただいたのですから多少は……」
「大丈夫ですよエリザベス様。あれは一種のプレイ。いちゃつきですから」
「まぁ! そうなのですね!」
なぁんてやり取りをしていた。隙あらばイチャイチャするお前らにとやかく言われたくはないわ。
まぁ、それはともかく。
イチャイチャ(?)した効果があったのかシャルロットとメイスの不機嫌も回復したようだ。(逆になぜかミラはずっと上機嫌だ)
そんなこんなで。
シルシュの聖剣も抜けて一件落着。さぁ地上に戻るかという話になったのだが。どうやらシルシュも付いてくるらしい。
「お前さんってここが巣じゃないのか?」
『傷を癒やすため、一時的に横たわっていただけよ。そもそもここは湿気が多くてな。やはり日光の当たる場所の方がいい』
「あー」
イグアナが日光浴をして身体を温める、みたいな? いやちょっと違うか? そもそもドラゴンって変温動物なのか?
ま、いいか。
帰りはシルシュが転移させてくれるというので、お言葉に甘えて俺たちは地上に戻ったのだった。
◇
「むー」
地上に戻ると、さっきまで上機嫌だったミラがむくれていた。女心と秋の空ってヤツか?
「おうおう、どうしたミラ?」
「……みんな、平気そうな顔をしている」
「? おう、そうだな。……あー、なるほど」
ミラが集団転移させたあとは、みんな顔を真っ青にして「うえぇえぇ……」となっていたのに、シルシュが転移させたあとは何事もなかったかのような顔をしている。
あれか。下手な人の運転では酔ってしまうみたいな感じか?
俺は魔法に詳しくないのでよく分からないが、慰めることくらいはできる。
「ま、相手はドラゴンなんだ。実力差があってもしょうがないさ」
「でも……」
「それに、こういうときは喜ぶもんだ」
「よろこぶ?」
「おうよ。自分はまだまだ成長できる。そのための目標が近くにいる。こんなに嬉しいことはないだろう?」
俺からすればそれは剣であり、対象は近衛騎士団長だ。
なにせ騎士団長は俺が初めて「負けた!」と思った人間だからな。基本的にはパワー系のくせに、無駄のない流麗な動き。
騎士団長の年齢は知らないが、見た目からして俺と大して変わらないだろう。あの歳で一体どれだけの修行を積めばあれだけの美しい剣技を身につけられるのやら。
自分の実力不足を認知でき、目標ができる。自らの成長にとって良いことだ。ミラもきっとさらに魔術師として成長できることだろう。
うんうん、我ながら良いことを言ったなーと自画自賛していたのだが。
「……浮気のニオイがする」
なぜかさらに不機嫌になってしまうミラだった。なぜだ?