無事に地上・湖畔にまで戻ることはできたものの。
未だに王都から「やっぱり追放はなしで」という早馬は来ない。かといって『本当に捨てたかどうか』の確認をする人間が来る様子もなさそうだ。
これはもうバカ正直に魔の森まで行かず、あの村でシャルロットたちを
お昼時になったので、俺たちは湖畔で食事をしながら今後の打ち合わせをすることにした。もちろん食料はシャルロットの
『ほぉ! これが最近の人間の食事か! 美味いものじゃのぉ!』
目をキラキラさせるシルシュを中心として、女子たちが楽しく食事を楽しんでいる傍ら。俺とラックは少し離れた場所で打ち合わせを開始した。
最初に切り出したのはラックだ。
「まずは意思確認といこうか。――アーク。俺はこのままエリザベス様と生きていきたいと思っている」
「つまり、騎士を辞めると?」
「いいや、違う。王のための騎士ではなく、エリザベス様の騎士となるんだ」
「……格好いいじゃねぇか、親友」
「よせよ」
少し照れたように笑ったラックが真剣な顔で顔を近づけてくる。
「一晩経っても王都から『無罪放免』の早馬は来ない。アークは何か感じ取ったか?」
「いや、王都方面から誰かが来た気配はないな」
俺の『気配察知』の力は存分に知っているラックはそれだけで納得したようだ。
「国王であれば、エリザベス様たちの追放が冤罪によるものだと分かっているはずだ。なのに早馬を遣わせる様子もない。つまりは婚約破棄と追放を追認したということになる」
「おう、そうだな」
早馬が来ない可能性はメイスから言及されていたのですんなり納得する。
しかし、『国王』か。王国の国民は『国王陛下』と敬称を付けてお呼びするべき。だというのに王国の騎士としての教育を受けてきたラックが呼び捨てにしているということは――
「そもそも国王は王太子たちが『ヒロイン様』に夢中となり、本来の婚約者を蔑ろにしているのを放置していた。――つまり、ヤツは、エリザベス様たちではなくあの女を選んだことになる」
「……あぁ、そうなるな」
前世の知識を思い出した今なら分かる。あの『ヒロイン様』は本物のヒロインなのだろう。聖女となり、攻略対象と共に聖剣を抜き、世界の破滅を救う
エリザベス嬢たちは物語の序盤で退場する悪役令嬢でしかなく。俺もただの悪役騎士でしかない。
ならば国王がエリザベス嬢たちではなくヒロイン様を選ぶのは当然なのだろう。なにせあっちは本物の『世界を救う聖女様』だ。そんな女を確保するためなら、有力貴族の娘であろうと切り捨てる判断をしたと。
しかし、俺にとってシャルロットたちは『悪役令嬢』という舞台装置ではなく。怒り、笑う、普通の人間だ。
そしてラックにとってエリザベス嬢は愛する人であり。
だからこそラックは決意した。愛する者を守るため。その決断を下した。
「俺はエリザベス様の騎士となる。ならば、彼女を貶め、追放したこの国は――もはや『敵』だ」
「ひゅう」
迷いなき断言に、うっすらと覚悟を察していた俺も驚いてしまう。
だが、いい気分だ。
女一人を守るために国を敵に回す。なんとも格好いい『
もちろん、ラックはバカじゃないので『剣を片手に王城に乗り込む』なんて真似はしないだろうが……国を敵に回した戦いとはそういうものだけではない。国が見捨てると判断した女を守り、共に生きる。それも立派な『国を敵に回した生き様』だ。
「アーク。そこでお前には王都に戻り、ことの報告を頼みたいんだが……まずは俺やエリザベス嬢たちは死んだことにして――」
ラックの発言を右手で制する。
「おいおい。俺があいつらを見捨てて王都に戻るとでも? それはずいぶんと安く見られたもんじゃないか」
俺の返事は想定通りだったのだろう。ラックはにやりと不敵に笑った。
「お前ならそう言うと思っていたぜ。だが、いいのか? お前なら次の騎士団長も狙えると思うが……」
「ここで女を見捨てて地位を取るような男なら、まずは侯爵家の後継ぎを狙っているさ」
「違いない」
はははっと笑いあう俺とラックだった。